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正面性 Frontality


デンマークの学者ユリウス・ランゲが、1899年に著書『造形芸術における人間の形態』で、古代エジプトやアルカイック期ギリシアの人物表現の特徴として提示した概念。彼は、記憶されたイメージをもとに観念的に捉えているため、古代彫刻では人体は頭部から足先までを垂直に走る中心線を軸に、厳密な左右対称の正面観で表現されるとし、これを「正面性の法則(Gesetz der Frontalité)」と命名した。この法則に則った彫像は、容貌、筋肉、着衣の表現についても、像の正面に立った観者の視点に合うよう計算されている。古典期のギリシア彫刻が、この硬直した厳格さから逸脱してコントラポストを生み出した経緯を思えば、正面性はプリミティヴな一段階ともみなせる。しかしローマの記念柱は、皇帝像にあえて正面観を用いて図像間のヒエラルキーを明確にしようとした。ビザンティン美術のイコンは正面性を二次元に移し替え、キリストや聖母、聖人たちを威厳に満ちた超越的存在に高めている。また、観者が像と正面で向き合う構図は、祈りを媒介するイコンの役割に絶大な効果をもたらしたにちがいない。19世紀末の象徴主義絵画が、正面観を取り上げるのも似たような事情からである。さらにこの概念を建築に拡大するならば、左右対称の建造物が公共建築や神殿にしばしば利用されていることに気づくだろう。このように、正面性は何らかの政治的・宗教的意図を孕みうるものとしても注目される。

(坂本恭子)

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