昨今は女性の社会進出が目覚ましいが、それでも育児や衣食住に関わる家事労働が女性に帰属するとする先入観はまだまだ支配的である。そしてこの家事労働は、対価の支払いを伴わないことから一般に経済学ではなく家政学の立場から扱われてきた。本書は、労働の性的分業の問題を、家事および家政学の歴史を繙くことによって辿りなおそうとする。本書以前にも、このような試みは20世紀初頭に「マテリアル・フェミニズム」と称される立場によってなされたことがあるのだが、夫婦による家事の共同を前提とした協同住宅は、現実の住宅政策と噛み合わない面もあり忘れ去られてしまっていた。同書はその「マテリアル・フェミニズム」にも再度スポットを当て、またS・フーリエらの空想社会主義なども踏まえて、労働の性的分業を問題視する立場を「ドメスティック・フェミニズム」として再編する試みとなっている。本書は、家政学やフェミニズムのみならず、建築やデザインの観点からも重要な論点を提出している好著であり、その日本的な展開を意図した書物としては柏木博の『家事の政治学』(青土社、2000[再販])が挙げられるが、今後は当の女性による研究の深化が期待される。
(暮沢剛巳)
(邦訳=野口美智子+藤原典子ほか訳、勁草書房、1985)
関連URL
●柏木博 http://www.japandesign.ne.jp/KUWASAWAJYUKU/KOUZA/1/BUNKA/KASHIWAGI1/
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