西洋の思想では、幾何学は世界の創造と密接な関係がある。プラトンによれば、コーラと呼ばれる場所での四つの幾何形態=正多面体(プラトン立体)の運動が、事物の生成をもたらす。キリスト教の写本には、建築家あるいは石工としての神が、コンパスを持って世界を創造する様子を描いたものがいくつもある。ここから、特に神秘的な思想の持ち主たちは、世界の創造の秘密に迫る鍵として幾何学を重視した。モンドリアンの幾何学的なあの作品は、神智学的なヴィジョンの表現でもある。また幾何学的な形は、プラトンやカントが言うように、それ自体で美しいものとしても考えられてきた。ここから幾何学は、自律性、普遍性、中立性、あるいは効率性を理想として掲げまたその実現を標榜する、モダニズムの絵画、彫刻、建築特有の表象ともなった。1980年代なかばピーター・ハリーは、この神秘主義と理想主義に彩られた表象としての幾何学が、その裏で管理社会の支配的なイデオロギーと手を結んでいることを、著述と絵画作品の両面から暴こうとした。彼のこの企ては「ネオ・ジオ(Neo
Geo)」と呼ばれる。
(林卓行)
|