絵画で色相のはっきり異なる色を組み合わせて用いること。それぞれの色の持つ「強さ」を最大限に引き出す方法とされる。ヴェネツィア派の画家やウージェーヌ・ドラクロワ、またアンリ・マティスなど、一般に色彩の扱いに長けているとされる画家の作品には、この色相対比を取り入れたものが多く見られる。けれどもこれらの画家の作品から、色相の対比的な使用を一種の「方法」として抽出し洗練していったのは、むしろバーネット・ニューマンやクリフォード・スティルといったカラー・フィールド・ペインティングの画家たち、またケネス・ノランドやエルスワース・ケリー、モーリス・ルイスのようなポストペインタリー・アブストラクションの画家たち、そしてなにより、彼らとともにあった批評家クレメント・グリーンバーグだった。グリーンバーグの考えでは、色彩とは純粋に視覚に訴えるものであり、形態の束縛からそれを解き放つこと、つまり色彩の開放性あるいは流動性を実現することが、絵画にとって最重要の課題となる。そのとき伝統的な絵画で用いられてきた色彩の「明暗」の対比は、むしろ、触ることのできそうな形態を画定し、閉ざすものだから(例えば「モデリング」と呼ばれるものがそうだ)、できるかぎり排除しなければならない。「色相対比」とはこうした文脈でクローズ・アップされたものである。
(林卓行)
|