昨今さまざまな議論が喧しい「ポストコロニアリズム」だが、この見地に立てば、かつての「プリミティヴィズム」や「フォーヴィズム」といった動向も、当然のように西洋中心主義的な搾取として批判的に再考されねばならないだろう。(旧)宗主国中心の世界・歴史認識に重大な疑問を呈する「ポストコロニアリズム」という概念自体がメディアに露出し始めたのは比較的最近のことだが、美術においては、同種の問題系が1980年代にすでに現われていた。すなわち、“黒人作家”J=M・バスキアの華々しい登場によって、この閉鎖的な世界の西洋中心主義がいかに硬直したものであったかが、逆説的に証明されたからである。そして89年、ポンピドゥー・センターにおいてJ=H・マルタンが企画して賛否両論を呼んだ「大地の魔術師たち」展は、米ソ冷戦構造が崩壊した後の世界を予見するかのように、美術の領域においても、「ポストコロニアリズム」が極めて重大な問題であることを明らかにしたのである。以後、欧米でも日本でもこの視座に立った多くの展覧会が開かれているが、その成熟はもう少し時間の経過を待たねばなるまい。
(暮沢剛巳)
関連URL
●J=M・バスキア http://www.emory.edu/ENGLISH/Bahri/Basquiat.html
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