「即興」を意味するこの用語が最も知られているのは、おそらくジャズの領域だろう。すなわち、その場の状況に応じて必ずしも機械的には譜面に従わず演奏することで、本来の均衡から逸脱する効果が生まれることを指して言うのだが、同種の試みは美術にも多く指摘することができる。絵の具の飛沫がキャンヴァス上に無作為に散乱する「ドリッピング」、台本なしに日常の偶然性を再現しようとする「イヴェント」、そのイメージの流用の仕方が時に本来の文脈を大きく歪曲してしまう「アプロプリエーション」などはいずれもそうした「即興」の一例と言えよう。してみると、予定調和の物語を崩し、予測不能な異化効果を生むことが「インプロヴィゼーション」の効能と言えそうだが、半面これは、「インプロヴィゼーション」がその成立の前提条件として、完成度の高い表現形式を必要としていることを物語っている。
(暮沢剛巳)
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