Das Kunstwerk im Zeitalter Seiner Technischen Reproduzierbarkeit
ドイツの批評家ヴァルター・ベンヤミンの複製芸術論。小著だが、同書が執筆された1936年の時点でいち早く複製芸術の本質に着目していたその先見性により、著者の代表作と見なされている。「芸術作品は、原理的には、常に複製可能であった」との書き出しで始まる同書は、古代ギリシアにおけるブロンズ像、テラコッタ、硬貨に複製芸術の起源を見出し、その後中世期の銅版や腐蝕銅版、19世紀初頭のエッチングへと展開されていく複製芸術の系譜を追っていく。なかでも、複製芸術の革命的な転機と位置付けられるのが19世紀中頃に登場した写真であり、ベンヤミンはその技術的核心を「この技術によって人間の手が形象の複製のプロセスの中でこれまで占めていたいちばん重要な役割から、はじめて解放されることになった」と評した。オリジナルと変わらない質のコピーを大量生産することが可能な写真が、芸術の「真正性」を、ひいては「アウラ」を揺り動かすとのベンヤミンの認識は、その後の芸術論にもきわめて大きな影響を与えた。なお、ベンヤミンの紹介・研究の進んだ現在、同書の翻訳は岩波文庫やちくま学芸文庫でも読むことができる。ほか、カルチュラル・スタディーズの教科書などにも、しばしば採録されている。
(暮沢剛巳)
(邦訳=佐々木基一編訳、晶文社、1970)
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