アメリカの美術批評家、H・フォスターが編集した現代芸術論のアンソロジー。「抵抗のポストモダニズム」と「反動のポストモダニズム」と分類を試みた編者の序文や、原著の表紙に掲載されたR・プリンスのスナップ写真は、同書が当時の時勢に対応したポストモダニズム宣言書であることを物語る。収録論文の傾向としては、R・クラウスのポストモダン彫刻論、D・クリンプの美術館廃墟論、F・ジェイムソンの消費社会論、J・ボードリヤールのコミュニケーション論など、ポストモダニズムの旗幟を鮮明にしたものと、J・ハーバーマスの近代論やK・フランプトンの批判的地域主義論など、伝統に一定の重きを置くものとに大別されるが、その立場の違いはモダニズムとポストモダニズムの、さらには後者に内在する「抵抗のポストモダニズム」と「反動のポストモダニズム」の緊張関係へと連なっていく。ポストモダニズムの喧噪が過ぎ去った現在も、『オクトーバー』に代表されるアメリカの芸術理論の一傾向を示す代表的文献であることに変わりはない。なお他にも、C・オーウェンス、G・L・ウルマー、E・W・サイードの論文が収録され、議論に一層の厚みがもたされている。
(暮沢剛巳)
●H・フォスター『反美学――ポストモダンの諸相』(室井尚+吉岡洋訳、勁草書房、1987)
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