K・マルクスが社会の生産諸関係におけるさまざまな力の分配を説明するために用いた概念。初期の著作より一貫して用いられているが、1859年の『経済学批判』において「社会の経済的構造を構成するもの」として定式化された。「交換価値」「剰余価値」といった諸々の価値と不可分の関係にある概念だが、その枠外にあるとみなされる芸術作品にも「商品」や「労働」としての価値を見出し、このシステムに組み込もうとした。同時代の美術作品では、労働のイメージを作品化したG・クールベの《石割り》(1849)などにこの概念と対応する側面を指摘することができる。またイメージの優位を説いたJ・ボードリヤールの「シミュラクル」やG・ドゥボールの「スペクタクル」という概念には、「生産」と「様式」の固定された関係の転倒を窺うことができるだろう。既存の価値観を転倒するという芸術作品の力は、生産様式という「古典的な」フィルターを介することによって明らかにされるのである。
(暮沢剛巳)
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