ドイツ語のstil、英語のstyleの訳語。ラテン語のstilus(尖筆、鉄筆)に由来し、これは「文体」という意味も有していた。現在「様式」という言葉自体は「生活様式(スタイル)」などのように、ある対象の定型反復的現象を指してさまざまな領域で使用されている。美術史においてもこの用語はときに没価値的で、単に芸術作品の形式的特徴によって作品の分類を行なうための用語として使用されることがある。だが芸術作品を中心とした歴史を記述するのが美術史であるという前提に立つとき、この用語は斯学にとってほとんど命脈とも言うべき意味を持っている。「様式」という語が視覚芸術に使用されることが多くなったのは16世紀後半のこととされるが、これは芸術作品の分類、保存に従事する専門家の出現と時期を同じくする。18世紀から19世紀にかけては、ヴィンケルマンが芸術作品上に表出したギリシャ人の民族的特性をギリシャ様式と規定し、またヘーゲルが芸術作品上に現われ出る精神の存在を説くなど、それぞれに違いはあるものの、芸術作品の形式に現れる内的存在が仮定されるようになる。こうした潮流のもとに19世紀末から20世紀初めにかけてリーグル、ヴェルフリンらが出現して、様式学とも言うべき美術史学を完成させた。そこで様式とは、芸術作品のモティーフなど一見してわかる形式的要素にとどまらず、「暖かい」「冷たい」調子のように芸術作品の形式上に醸し出される感情や品質等を包含する概念といえる。様式学とは、それらの特性を踏まえたうえで作品を分類、同定し、芸術作品の形式的諸要素を中心とした歴史をつくり出す方法である。ヴァールブルクやパノフスキーらのイコノロジー研究や、フェミニズムなど第二次戦後のアート・ヒストリーの方法が、ともすれば芸術作品以外の歴史や知識に移行する可能性を孕んでいたことを考えるとき、様式が美術史学の存続にとって決定的な意義を持っていることを確認させられる。
(浅沼敬子)
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