絵の具の「塗り」を強調した絵画のありようのこと。「絵画的であること」などと訳される。より具体的には、輪郭が曖昧で開放的な形態、形態よりも色彩の力の重視、素早く、ダイナミックなタッチの多用、色むらの効果的な利用、といった特徴のこと。クレメント・グリーンバーグはこれを、抽象表現主義の絵画の重要な特徴だとした。ただこのペインタリネスという概念は、単独で十分な意味を発揮するものではない。「線的であること」、つまりドローイング=素描、あるいは閉じられた明確な輪郭「線」を強調した絵画のありようとの対比のなかで、理解されなければならない。この対概念はもともと美術史学者ハインリッヒ・ヴェルフリンによる。彼はルネサンス美術からバロック美術への展開を「彫塑的
(plastisch)/線的」から「絵画的(marlerisch [=painterly])」への展開とし、またこの理解がほかの時代の展開にも応用できると考えた。そしてグリーンバーグによれば、抽象表現主義とその前後の絵画の展開もまた、16世紀以降西洋美術史のなかで連綿と続いてきた、「絵画的」と「線的」の二つが織りなす弁証法的な発展史の一部に、位置づけられる。彼のこうした主張の裏には、それらアメリカの美術がヨーロッパの正統に連なるものだという、強烈な自負も窺える。
(林卓行)
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