「絵画的現実主義」。19世紀末〜20世紀初頭にかけて欧米を中心に広く展開された、写真の「芸術性」を追究する運動。19世紀に写真が産声を上げて以来、この新しいメディアが伝統的な絵画に比肩する芸術足りうるか否か、という問いは絶えず激しい議論の対象となってきた。1886年に刊行されたP・H・エマーソンの論文「写真――絵画的芸術」は、その可能性を全面的に肯定するものであり、以後これに刺激されて1892年に結成されたリンクト・リンクの実践を皮切りに、写真表現や教育の現場で広く「ピクトリアリズム」の可能性が追究されていくことになる。その過程で開発されたカーボン印画法(Cabon
Process)ゴム印画法(Gum Bichromate Process)、オイルプリント(Oil Pigment Process)、引き伸ばし用ブロ、マイド印画紙を使用するオイルプリント、ブロムオイル(Bromoil
Process)などのさまざまな技法は、いずれも写真に絵画に匹敵する色彩や諧調を与えるためのものであり、とりわけ、後期印象派の絵画がその範と仰がれた。その影響は、はやくも明治20年代には日本へと及んでいる。写真の記録性よりも審美性を重視した点では、史上初めての組織的な芸術運動であった。
(暮沢剛巳)
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