「簡単な」、「単純な」、「簡潔な」を意味する形容詞。「シンプルで美しい」とは常套句のようにして言われることだが、これはたぶん、機能主義の美学の影響だろう。そこでは、ある形態が「その機能に従う」ほど、余分なものを排して「機能的に」なればなるほど、それは「美しい」とされる。機能という「本質」がこの形態のうちに完全に表現されるからだ。またこの「シンプルな美しさ」は、倫理によっても支えられている。つまり「ムダがない」ことは、「美しい」と同時に「正しい」こととしてある(ジーパンにTシャツ1枚という「シンプルな」コーディネートは、その飾らないところが「正しい」)。それでも、一方で「美しい」ものには「精妙さ」が求められる。つまり「簡潔」ではあっても「単純」であってはならず、むしろ「単純なようでじつは複雑」というのが理想なのだ。ここからすると、例えばピエト・モンドリアン、ニコラ・ド・スタール、また特にベン・ニコルソンは、徹底して単純な要素を精妙なやり方で組み合わせるということを、ほとんど意地になってやり続けたようでもある。彼らの「シンプルで美しい」作品は複雑なコンポジション=構成に負っている。とすれば、このコンポジションを徹底的に否定したミニマル・アートを、間違っても「シンプルで美しい」などと言ってはいけない。
(林卓行)
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