となりあわせに置かれた二つ以上の色彩が、遠くから見ると混じり合ってひとつの色に見える光学現象。色彩の鮮やかさを重視したクロード・モネをはじめとする印象主義の画家たちによって、絵画に応用された。カンヴァス上に並置した鮮やかな色と色が、「眼のなかで溶けあう」ことで生まれる色は、パレット上で絵の具同士を混ぜ合わせてできる色より輝いて見える。ここから、例えば灰色を塗りたいときでも鮮やかな黄緑と赤紫の小さな筆触を並置するという「筆触分割」の方法が生まれ、これはさらに、新印象主義の点描あるいは「分割主義」へとつながってゆく。身近なところでは、この視覚混合の原理は網点スクリーンによる商業印刷に応用されている。そしてこの商業印刷物のパロディとしてのロイ・リキテンシュタインの作品は、網点を誇張することによって、結果として視覚混合の原理の「種明かし」をしてもいる。そのリキテンシュタインに、モネの《ルーアン大聖堂》を網点の手法で描き直した作品がある。おもしろいことにそれは、彼がほかの画家の作品を描き直すときと違って、モネの原作にかなり忠実なものに見える。リキテンシュタインの網点がモネの筆触分割にスムースに重なり合うその作品からは、リキテンシュタインの潜在的な色彩画家=コロリストぶりが窺える。
(林卓行)
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