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札幌の美術2002――20人の試み
吉崎元章[札幌・芸術の森美術館] |
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毎年3月に札幌市民ギャラリーで開かれる「さっぽろ美術展」。通常は公募展やグループ展などがひっきりなしに行われているこの会場が、約180人の札幌市内在住の美術家、書家の作品で埋めつくされる恒例の展覧会である。札幌市が主催する札幌の美術の紹介を目的としたこの展覧会は、その前身から含めると1948年から続く由緒正しい(?)ものである。その間さまざまな工夫がされてきたものの、出品作家の固定化や、既発表作品の出品など展覧会に対する一部作家の意欲の欠落、作家選定に対する不満などの諸問題が浮上してきていたのも事実である。 そこで、今年は大きくリニュアルし、出品作家を大幅に減らしてなんと20人。単純計算してもこれまでの9人分のスペースを一作家が使えることになる。会場が許す限り多くの作家の作品を展示することによって札幌の美術を総花的に見せようとする考えから、毎年ある程度テーマを決めて、選りすぐった作家の仕事をしっかり見せていくことへの転換である。
一人あたりの面積が増えたことによってブース毎の展示になり、これまでの公募展会場とそれほど変わらない雰囲気を打破し、さまざまな表現が可能となった。インスタレーションや映像を扱う作家が本領を発揮することだろう。また、これまでの流れで書家が5人含まれており、現代美術との同居によって、どのような刺激を与え合うか楽しみである。 30歳から72歳のさまざまなジャンルの美術が緊張感をもって展開される新生札幌美術展。新たな複数の視点からとらえた札幌の美術の現在を体験できる展覧会になるだろう。 会期中には、アーティストトークやワークショップも数多く開催される。
●学芸員レポート 2月中旬に1週間ほどイタリアに出張。ローマを拠点にトリノ、フィレンツェをまわってきた。2月7日(木)に連絡が来て、2月11日(月)に出発という急な出張であった。目的は、今年開催予定のイタリア・ルネサンスの素描展の出品交渉と作品調査。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロという人類史上比類なき足跡を残す三巨匠の素描を中心に、その流派の画家のものを含めて展示しようとするものである。昨年から日本国内でいろいろな催しを行っている「日本におけるイタリア年」の最後を飾る展覧会として、イタリア政府の協力のもと実現した。我が芸術の森美術館にとって今年の目玉の展覧会であり、この三巨匠の作品が北海道に来るのは初めてとあってかなり力を入れている。しかし、イタリア関係の展覧会をするときは大抵そうであるが、準備がなかなかスムーズに進まない。イタリア人気質なのかは分からないが、何ごとも期日どおりに返答がきたためしがない。それでも不思議に最終的にはつじつまを合わせてきて、展覧会がちゃんと開催できてしまうのである。とは言ってもさすがに今回は開催が迫りながら未決定事項があまりに多く、最終交渉に出向くことに相成ったのであった。 歴史が古く優れた美術品を有するイタリアでは、各地に優れた美術館や博物館が点在し、その地域の美術文化財監督局がそれらを統括する形をとっている。しかし、たとえ美術文化財監督局がOKを出しても、所蔵館が首を縦に振らなければ作品は借りられない。そこで、今回直接所蔵館に出向いて館長と面談したのだが、もともと素描はかなりデリケートで、照度や公開期間などの制限がとりわけ厳しい。作品保存上の問題で貸し出しを躊躇されては、学芸員として何も言えない。それをあえて交渉しなければならないのは辛いことであるが、照度を落とすとか、午後だけの公開に限定するとか、特製ケースを作成するとかの提案をしながらの話し合いである(その時は結論が出ず、後日返答ということであったが、1週間後いくつかの条件付きであったものの貸し出し許可の知らせがあった)。 この展覧会は、4月21日から松本市美術館で開催したあと、6月30日から8月18日まで札幌・芸術の森美術館で開催される。 なお、今回イタリア国内のいくつかの美術館を見て回り、その多くは自国の美術品で占められているということに改めて感心した。世界に大美術館はいくつもあるが、その多くは展示作品が他国から運ばれた(時には略奪した)ものが中心になっていることを考えると、芸術の国イタリアを再認識せずにはいられない。 [よしざき もとあき] |
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