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中西夏之《柔かに、還元》の絵画/思索 展
南 雄介[東京都現代美術館]
 
福島/木戸英行
東京/南 雄介
倉敷/柳沢秀行
高松/毛利義嗣


中西夏之《柔かに、還元》の絵画/思索 展
 東京から名古屋は遠いが「のぞみ」に乗れば2時間とかからない。このrecommendationでも名古屋担当の方はいらっしゃらないみたいなので、名古屋市美術館の展覧会について書くことをお許し願いたい。
 名古屋市美術館常設企画展と銘打たれたこの展覧会は、常設展示室の1室を使った小企画展で、200号の絵画が3点、47点のドローイング連作、25点のエッチング連作からなる。200号の絵画は、1996年に制作された《柔かに、還元》連作I、II、IIIの3点。ドローイングはこの絵画連作のために同時期に制作された鉛筆と水彩によるもの、そして版画は、同じ目的で同時期に制作されたドローイングに基づき、昨年制作されたものである。
 筆者は、かつて1997年1月から3月にかけて東京都現代美術館で開催された中西夏之展を担当した。3点の絵画連作は、この展覧会に絵画の最新作として発表されたものであり、うちIのみが後に同美術館に収蔵された。また、ドローイング連作も、同じ機会に関連作品として寄贈されている。
 そのようなわけであるから、筆者にとってなじみの深い作品ではあるが、《柔かに、還元》連作のI、II、IIIが揃うのは、東京都現代美術館での展覧会以来、5年ぶりである。東京都現代美術館での展示は、しかし3点がそれぞれ別の場所に展示されていたから、同じ一つの壁面に3点が揃って並ぶのは初めてということになる。また、ドローイング連作は、くだんの展覧会のカタログに収録されていたものであるが、これまでに展示されたことはない。
 だが、そもそも中西夏之のこの種のドローイングが展示されたことは、これまでにほとんどなかったのではないだろうか。それは、1点の絵画作品が制作される途上で日々繰り返し描かれていく、一種のドローイングによるメモのようなものである。画家は、ドローイングを反復することで、自らの作品に対する内省を深めていく。
中西夏之展ちらし オブジェにせよ装置にせよ、またインスタレーションにせよ、中西夏之にあっては、すべてが絵画への参照を持っている。あるいは、別の言い方をすれば、中西夏之における絵画は、芸術の分類学上の範疇とか、物理的な形式性とかに還元されるものではない。そのような意味では、過去に行われてきた中西の展覧会は、いずれも一種の絵画論としての側面を持っていた(それは私が担当した5年前の展覧会も例外ではない)。名古屋市美術館のこんどの小企画展では、それがドローイングと絵画との照応関係という非常に具体的な形で示されている。と述べておいてから急いで付け加えるのだが、それはけっして説明的という意味ではない。展覧会場には、手と眼の往還から画面が生成し、ゆらめき、息づく気配がたちこめていた。ドローイングが、絵画に潜む何ものかを解き放ったような景色であった。
 最後になったが、会場で配付されていた小冊子に掲載された山田諭(名古屋市美術館学芸員)のテキストは、現代絵画について書かれたもっとも精緻な分析の一つであることを付け加えておこう

会期と内容
会期:2002年4月23日(火)〜7月7日(日)9:30〜17:00(6月は17:30まで) 休館日なし
会場:名古屋市美術館 名古屋市中区栄二丁目17番25号(白川公園内) tel. 052-212-0001
URL http://www.art-museum.city.nagoya.jp/
入場料:一般300(250)円/高大生高・大生200(150)円 ( )内は30名以上の団体料金
問い合わせ先:tel.052-212-0001

中村一美 Painting
 中村一美のひさしぶりの南天子画廊での個展は、前後期2期に分かれていて、200号以上の大作4点がそっくり入れ替わるという。今年9月にはいわき市立美術館で、1999年のセゾン現代美術館に続く美術館規模の個展が開催される予定になっており、非常に精力的な制作の状況がうかがわれる。
 実際、近年の中村の絵画作品は、まさにハーヴェスト・イヤーズと言うにふさわしいような時期を迎えているようだ。もともと色彩の感覚と扱いは絶妙な画家だったが、〈採桑老〉シリーズを始めた頃から、力で画面をねじ伏せる緊張感に、柔らかな自在さの感覚が加わるようになった。メタリックなピンクやエメラルドグリーン、紫、オーカー、えんじ、等々、ときには鮮やかな、ときには沈んで渋い、色彩が思いもかけぬ組み合わせで交錯する。だが、中村においては、色彩はけっしてイリュージョンの陶酔境を導くものではない。色彩とともにかならず絵具という実体あり、それが絵画の身体を維持するものであることに、作家はつねに自覚的であるように思われる。自由と束縛、規則と逸脱、制約と解放、渾沌と秩序、形式と破壊、等々、相反する要素が中村の作品のなかではつねに衝突しているのだ。この摩擦、フリクション、それが絵画にリアリティをもたらし、絵画を「絵空事」から遠ざける。
 そしてじっさい、中村は早くから、絵画がこの現実世界から無縁な、無垢な存在ではありえないことを主張し続けてきたのではなかったか。今回の展示においては、それぞれの作品に作者の自筆によるコメントが添えられている。それを読むならば、中村が、昨年9月のニューヨークでのテロによって先鋭的に示された、世界がじつに野蛮であり悲惨であることの可能性に抗し、絵画の力と救済を証明するために、制作のテンションを維持してきたことがわかる。
 ――そう、だから私は思うのだ、中村一美を同時代人として持つことは、われわれにとってのせめてもの幸運と言うべきではないか、と。
中村一美
《ユガテIII(Social Semantics 11》2002年3月 アクリル・綿布

会期と内容
会期:Part I: 2002年5月13日(月)〜6月1日(土) 10:30〜18:30(祝祭日休)
Part II:200年6月7日(金)〜6月29日(水)
会場:南天子画廊 東京都中央区京橋3-6-5木邑ビル1Ftel. 03-3563-3511
問い合わせ先:tel.03-3563-3511

[みなみ ゆうすけ]

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