岡山市にまた新たなアートスペースが誕生した。
名前は『Art Garden(アートガーデン)』。場所は岡山市の西口から徒歩で10分ほどになるが、活気あふれる商店街を抜けた先の静かな住宅街の中に、すっぽりとおさまりよくたたずんでいる。
竹中工務店が設計、施工したと建物はシンプルなコ字型。
ギャラリースペースを中心にして、その両脇は、一方にグッズ販売もあるカフェ、もう一方は各種造型教室やミーティングに使えるフリースペースとなっている。
ギャラリーは、いわゆるホワイトキューブだが、心地よく取り入れられた外光や、2階へ通じる階段の形状がアクセントになって、無機質な印象はない。また照明設備も整い、さらに天井には各400kgまで対応できるフックがあるので、音楽やパフォーミングアートにも十分対応できる気配りの効いた施設となっている。
おそらくこれは、小規模な美術館といってもよい十分な機能を備えているだろう。
逆に言えば、ハードの機能面だけを見るなら小規模な公設施設と変わらないわけだが、オーナーの長尾邦加氏は、アートをより日常と地続きなものとしたいと願い、また当然経営面も考慮して、常に利用者の視点を意識している。
そのことが、おそらくできたばかりのこのスペースに、すでにあたたかな人の温もりをあたえているのだろう。
たとえば、自主企画が主体となるギャラリーこそ貸出料6日15万円と相場並みの設定をしているが、その他の各種教室として貸し出すスペースは、20人ほどがゆったり活動できる10坪の広さで2時間2500円と極めて廉価に設定されている。それにオーナーが公民館の不自由さを意識したとのことだが、使用時間も朝10時から夜10時までというのも、がんばりものだ。
実際、オープンして間もないのに、講座受講生を主にして人の出入りも多く、そうした人たちが、オーナーが発信したい現代作家を取り上げたギャラリーをのぞいてゆくという動きができつつある。
こうした施設が、個人の手により、それも周囲に大量集客する施設があるわけでもなく、また画廊など美術に関心のある人が回遊する場所があるわけでもない地域に、別に超然と孤立するでもなく存在する。
これこそが岡山の豊かさである。
このギャラリーの柿落としとして実施されたのが、「高原洋一 -イメージの時空- 2002」展。
高原は、主としてシルクスクリーン版画を手がける岡山在住のベテラン実力派。
遺跡の発掘現場に、自身が手がけた備前焼のオブジェが配されるなど、シュルレアリズム的な異質なイメージの出会いによるフィクショナルなトーンが基調となるが、過去と現代の時間の対比、火の刻印をまとった備前焼のオブジェが水の中に浮かぶといったように土、火、水などの自然の諸要素の対比、そしてその各々の図像達が体現する自然と人工のせめぎあいなどが、抜群のグラフィカルなセンスで作品としてまとめあげられる。
さらに高原の場合、個別の作品もさることながら、これらの作品により空間全体を構成する能力もきわめて高い。
私が岡山県立美術館で担当した「アートラビリンスII 時の記憶」にも出品していただいたが、その時も石の床への映り込みまで計算にいれた素晴らしい空間を作り上げ、岡山県美でも歴代有数の美しい展示空間を現出させた。
今回の展示では、ほとんど新作が用意され、作家のモチベーションの高さをうかがわせ、まさにこの新たなアートスペースの冒頭を飾るにふさわしい、実にすばらしい展示空間となっていたのは言うまでもない。
このように箱、運営ソフト、アーティストと資源はそろっている。それもこの『Art Garden (アートガーデン)』では行政などが何も手を出さずとも、これだけのパフォーマンスがなされたわけである。
今後、こうしたスペースこそを大切に育んでゆきたいし、むやみに仕組みばかりいじりたがって、低いパフォーマンスにとどまるような愚行は避けるように自戒しておこう。