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「水脈の肖像2002―日本と韓国、日本と韓国、二つの今日」展
吉崎元章[芸術の森美術館]
 
札幌/吉崎元章
埼玉/梅津 元
神戸/木ノ下智恵子
福岡/川浪千鶴

 日本と韓国と言えば、サッカーワールドカップの熱狂がまだ新鮮な記憶としてよみがえるが、イングランド×アルゼンチン戦で盛り上がった札幌では、ワールドカップの会期に合わせるように日韓の現代美術展が開催された。北海道在住の現代美術家11人と韓国の作家10人が北海道立近代美術館を会場に開催した「水脈の肖像2002」展である。
会場風景
藤木正則
端聡

 しかし、これは単にワールドカップに便乗した企画ではない。札幌や旭川を中心に活動する昭和20年代生まれの作家による「水脈の肖像」と称するこのグループは、札幌市内の画廊で1998年から韓国の作家を数名加えて展覧会を開催してきた。さらに遡れば、北海道における日韓の美術交流は、1980年代以来これらの作家も加わり盛んに行われたいくつもの展覧会を通して20年以上続いている。
 今回の大規模な展覧会では、北海道勢として昭和30年代生まれの川上りえ、佐々木けいし、端聡、藤本和彦が加わった。北海道作家の多くは、それぞれが展開する近年の傾向をさらに発展した作品を発表。一方、韓国の作家のこれまでの作品については詳しくは知らないが、出品した作品からはお国柄による特徴というよりは、北海道の作家との国を越えた共通の造形的、社会的問題意識を顕著にした。
  そのなかで端聡と藤木正則は本展のために韓国との関係に真っ向から取り組んだ作品を制作した。端聡の作品は、知人の在日韓国人男性の大きな肖像とその前に設置された金属製の筒から成っている。筒の両端からそれぞれ「ありがとう」という意味の日韓の言葉が同時に発せられ中央の隙間から聞こえてくるが、ふたつが入り交じった音声は何を話しているのかよく聞き取れない。人間的結びつきを求めていながら混沌としている現在の両国間の関係を暗示しているようで興味深い。
 藤木正則は、日本最北地の稚内在住。北海道と韓国の間にあるもの、それは日本海である。彼の家の近くの海岸には海流の関係でハングル文字が刻まれた漂流物が流れ着く。彼が拾った100円ライターとペットボトルの源をたどって彼は韓国を訪れた。韓国では日本海のことを「東海」という。作品名《日が昇る海/日が沈む海》が示すとおり、稚内では陽が沈む日本海も韓国では日が昇る海である。両者から見た海を壁に映すとともに、彼が拾った漂着物と韓国で捜しあてたそれと同じものを並べて展示。その探索過程も小さなモニターで映し出す。地図上でしか認識していなかった韓国との地理的関係を、実際に海を渡ってきた物を通して明白にあぶり出している。
 日韓合同のグループ展が意味するもの――それは、同じ会場にそれぞれの作品が並ぶだけではないだろう。狭い地域での馴れ合いに陥ることなく、他国の作家と行き来し互いに刺激し合えるとともに、観覧者はそれぞれの作品に現れた違いと共通点を意識することにより文化の理解がより深まっていくにちがいない。「近くて遠い国」とよく形容される両国間の関係改善のために、スポーツだけではなく美術がひとつのきっかけと成り得るかもしれないという期待を抱かせる。来年にはこの展覧会が韓国でも開催されるという。
 ところで、この「水脈の肖像」をはじめ、「北海道立体表現展」「HIGH TIDE」など近年北海道において再び現代美術のグループ展が盛んになってきた。ひとつ興味深いのがそれぞれのグループを横断して出品している作家が少なくないことである。枠にとらわれない大らかな精神の現れなのか、北海道の現代美術の層の薄さなのか、さまざまにとらえることができるが、年代や所属団体を越え、現代美術というフィールドで結びつき、活発な活動が北海道において繰り広げられつつあることを歓迎したい。

写真=上:会場風景 中:藤木正則《日が昇る海/日が沈む海》 下:端聡作品 

会期と内容
参加作家:<北海道>荒井善則、大滝憲二、柿崎煕、川上りえ、佐々木けいし、佐々木徹、下岡考之、端聡、藤井忠行、藤木正則、藤本和彦
<韓国>朴光烈l、尹東天、金益模、黄宇哲、安貞敏、崔美娥、李惠映、長辰卿、Jung Wonchu

会期:2002年6月12日(水)〜6月23日(日) 10:00〜17:00(入場は16:30まで) 巡回展:ArtWarm(石狩市花畦1条1丁目 6月25日〜7月21日)
休館日:月曜日
会場:北海道立近代美術館 札幌市中央区北1条西17丁目 tel. 0248-79-4811
入場料:一般500(400)円 大学生300(200)円 高校生・小中生無料

学芸員レポート
  美術館の展示でコンピュータやプリンタがすっかりなくてならないのものとなってしまった。美術館に限らずそれは社会全体に言えることではあるが、こんなに便利なものかと最近特に実感している。当館では開館時からMacintoshをずっと使用しているので、12年のMacユーザーになる。データベースソフトの使いやすさとレーザープリンタのきれいさに当時は驚かされた。はじめのうちは調査研究などの支援や事務処理に用いていたが、いつしかプリンタの画質向上も手伝って、展示室に掲出するキャプションや解説パネルなどもつくるようになっていった。一昔前までは、キャプションは1枚1000円前後で業者に発注し、その文字校正にもかなりの時間が費やされものであるが、いまではデータベースソフトでレイアウトを変え出力するだけで、遜色ないものができあがる。
 さらに解説パネルが自前でつくれることも大助かりである。やはり学芸員としては解説文は展覧会直前まで推敲を重ねたいものである。ただ筆が遅いだけではなく、実際に作品を展示してから文章をさらに練れることは、展示作業段階での変更にも柔軟に対応できるなど、来館者によりわかりやすい解説につながるものであろう。何週間も前に書き上げなければ写植打ちに間に合わなかった時代とは雲泥の差である。
 最近はカラーインクジェットプリンタも各社とも写真画質を売りにしているとおり、確かに写真も参考図版として掲出するのには充分すぎるほどのクオリティーである。安く、早く、校正の手間もはぶけると三拍子そろっているものの、レイアウトなどに懲りすぎてかなりの時間が費やされてしまうこともあるのも事実。これからの学芸員はデザイナーとしてのセンスも要求されるようになるのかもしれない。ただし、高画質で出力すると一枚できるのにかなりの時間を要するし、プリンタの調子がおかしくなろうものなら家電店に走らなければならない危険性も秘めている。
 芸術の森美術館で開催中のイタリア・ルネサンス三大巨匠素描展でも、美術館のコンピュータをフル稼働してつくったパネルを多数用いている。展覧会初日の朝にようやくプリントアウトが終わったパネルもあった。

[よしざき もとあき]

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