DNP Museum Information Japan - artscape
Museum Information Japan
Exhibition Information Japan
Recommendations
Exhibition Reviews
HOME
Recommendations
「2002FIFAワールドカップTM記念文化催事
大分現代美術展2002 アート循環系サイト」

柳沢秀行[大原美術館]
 
福島/木戸英行
倉敷/柳沢秀行
高松/毛利義嗣

 まずは担当者のみなさま、ごくろうさまでした。
 ほんとにご苦労様でした。

 これだけ各所に作品を展開するとなると、各地権者との交渉、各作家さんとの交渉、場所の割りふり調整、それに実際の作品設置作業、またそれに……。
 文字にしたら、やっぱり事もなげになってしまいますが、例えば設置場所だけ挙げても、工場跡地、お寺、遺跡、電信柱、住宅展示場、それにJRさん。
 まずこうした場所に気がつくこと。それから「ここ貸してください」ってお願いするために、どこの、どの部署の、だれに声かければ良いのかも調べなくてはなりません。それから相手がわかっても「ここにこんな作品置かせてください。ここでこんなことをやらせてください」って作品を理解していただき、その場でやらせてもらうために、もう一苦労。
 それに作家さんたちに「はい、あなたはここでこの作品」とはいきませんから、一緒にロケハンして、各々の希望を調整し、あるいは作家さんが見出した新しい場所を検討して、また交渉という作業も平行して行わなければなりません。そのうえ作品設置には輸送だけではなく、様々な素材や人材を調達しなくてはなりませんから、関係を持つ業者さんなども無数に増えていきます。
 会期が始まる前だけでも、こうしたあれこれの(考えるだけで目も眩む)作業があるうえ、会期が始まればお迎えすべきお客様に関わるまたあれこれの仕事が待っています。
 ちなみに私の場合、作家が5名、関係先が10件位までは仕事量は足し算。そこから1人でも1件でも増えると×1.5って感じで仕事量が重くのしかかりますから、今回の人数や場所数からしても、ほんとうに……。今はただただ、担当者のみなさま、お疲れだされませんように。
 と、まずは同業者の立場から、どうしても言わずにはおれないことを述べさせていただいて、改めて。
 この展覧会は、FIFAワールドカップの大分開催に合わせて、大分市美術館を基点に市内各所に18人の現代美術作家の作品を展示するもの。
 現代美術作品を展示することによって、歴史も含めてその場所がもつ様々な特性を改めて見出し、見る人がそこを新たなサイト(現場)として発見する機会を提供することが最初の狙い。
 そのうえで、街と(現代)美術との出会い、また現代(の美術)と過去(の歴史を伝える遺跡)との出会いをもとにして、人々のイマジネーションが時空間を循環し、さらには居住民も観光客も、あるいは一般の方もアーティストも一体となって交流しながら、日常と芸術の新たな関係について思い巡らすという大循環が始まる契機をも提供しようというのが、より大きな狙い。
 それゆえ展覧会名が「アート循環系サイト」。
 というのが、およそのコンセプトで良いのかな?

 さて事前の情報収集で、作品がかなり点在しており、1日で全て見て回るのは厳しそうと判断。
 そこで自家用車を駆り、岡山から瀬戸大橋を渡り愛媛県今治市から深夜のフェリーに乗って早朝大分到着で日帰りという強行日程を敢行したが、迷う事もなく、作品も程よい距離にあって、夕方までに楽々回り終えました。
 おおまかな印象を短述すれば、総じてレベルの高い、そして実にバランスのよい展覧会でした。
そのバランスとは、まず18名の作家の、作品スタイルや世代、それに国際的な活躍をするベテラン勢と地元勢と言ったバランスであり、また作品の設置された場所の特徴が、先に記したとおり、街中の商店街あり、郊外の住宅地あり、遺跡ありと、その兼ね合いも実に周到でした。
 道々思っていたのが、これだけ作品設置場所が点在すると、どこから回り始めてどこで終わるかは様々なパターンがあるでしょうが、おそらくどのルートをとっても、それなりに起承転結の起伏もあり、そしてこりゃダイ無しというポイントもなく、おそらく大抵の方が満足してくださる内容だと思います。
 そうした中から、ぜひ声を大にして賞賛したいこと。そして、ちょっと考えこんでしまったことの二つを書きとめておきます。
 まず素晴らしかったのが、各作品設置場所に滞在する(おそらくボランティアの)スタッフ。
 平日に訪れたからかもしれませんが、若い学生さんを見かけることはなく、大半が30歳代以上の女性ばかりでしたが、その対応が実に見事。
 こちらが作品を見たい時にはそっと間合いをとり、設置場所などがわからなそうな時は丁寧にインフォメーションをくださる。途中で、メンテナンス中の作品がありましたが、それを詫びつつどのような展示であったのかを的確に知らせてくださる。
 以前、岡山近くで実施された同様に野外で作品が拡散展示された展覧会の時は、3度訪れ3回とも学生(と思しき)スタッフに、求めもしないのにピント外れの説明を一方的に始められ、設置場所を尋ねるととんでもない方へ指示を出されて、真夏の路地をずいぶんと歩かされたりしたことを思えば、たんたんと何事もないように観客をさばく大分のスタッフの質の高さは特筆ものでした。
 この方たちがどのように集い、そしてどれだけ、どのようなレクチャーを受けて現場に臨まれたのかをぜひ教えていただきたいと思うし、またこうした方たちが今後のアートや美術館サポーターであると思うと、大分は実にうらやましい。
 さて一方、ちょっと考え込んでしまったこと。
 それはこの展覧会の中で、もっとも活気が乏しく、もっとも作品がよく見えてこなかったところ、それが美術館であったということ。
 もちろんお寺や工場跡地はそれだけでニュアンスに富み、ちょっとしたアレンジで相応に納得する姿になりやすいもの。それに対して無機質なホワイトキューブは中途半端に手をいれると収拾がつかなくなるやっかいな空間ではあります。
 逆に言えば、街中の展示はその場所のニュアンスに作品が食われることもありますし、美術館の場合は作品が厳然たる主として立ち現れる空間を形作ることができる。
 ただ今回は、人気のほとんどない美術館を歩きながら失礼ながら「残滓」の言葉がふっと浮かんでしまった。
 この展覧会が、歴史も含めてその場所がもつ様々な特性を改めて見出し、見る人がそこを新たなサイト(現場)として発見する機会を提供することを目指すのだとすれば、人々にとって美術館はどのような場として見出されたのでしょうか?
 他所で費やす労力が多大であればあるほど、自らの手の内へ向けるエネルギーがそれに振り向けられがちなこともよくわかるし、今回の展覧会にこれ以上を望むのもあまりに酷なことではありますが、人々が作品を巡り、その中枢として美術館を訪れるという素晴らしい機会であっただけに、「すげ〜。 美術館が一番かっこ良かった!」って見せつけられるような展示にできたらな〜と、ちょっと残念。アートプラザの村岡さんと大久保さんを美術館でよかったんじゃないのかな? なんでかな?

岩井俊雄
大久保英治
大久保英治
大友氏の館跡の遺跡にて、
住民参加のワークショップで作品化
岩井俊雄
城跡の堀をまたぐ橋に作品設置。
移動につれて音と光が

折元立身
折元立身
歓楽街のビルを見上げると

諏訪真理子
諏訪真理子
古墳と石仏をつなぐ、
郊外ののんびりした道沿いの電信柱に

会期と内容
会期:5月25日(土)〜7月14日(日)
会場:大分市美術館、アートプラザ、萬壽寺、大友氏館跡、旧百人力工場、旧吉野屋工場、JR大分駅南口旧電力区訓練室、
わさだタウン ほか
出品作家:村岡三郎、郭徳俊、河口龍夫、大久保英治、折元立身、原口典之、前田一澄、剱持啓子、剣持和夫、村井進吾、岡崎乾ニ郎、佐藤時啓、諏訪真理子、太郎千恵蔵、斎藤美奈子、岩井俊雄、中村政人、大岩オスカール幸男


学芸員レポート
 大原美術館で8月24、25日に美術館のアートプログラムパーク化企画(なんじゃそれ)「チルドレンズアートミュージアム」を実施します。
 中学生以下は入館料を半額。そして館内外で8つのワークショップや鑑賞ツアーなどのプログラムが実施され、事前申込無しでだれでも参加ができます。そのうえアートフリーマーケットや出張郵便局も予定。夏休みの2日間、美術館で子供も大人ものびのびと遊んじゃおうという企画です。
 もっともそれだけのことを美術館職員だけではとても実施できませんから、地域の様々な人材や組織と連携して、プログラムの企画実施をゆだねたり、お手伝いをしてもらったりと、おそらくのべ100名近い外部の方がスタッフとして大原美術館を舞台に協同作業を実施いたします。
 それから、大原美術館では、美術館よりの情報提供と、当館のみならず美術や文化に関心のある方の交流の場としてメーリングリストも立ち上げました。
 まだ1ヶ月も経っていませんが、参加者は早々に150名を越えて増加中。毎週1回のメールマガジンや、各担当職員からのお知らせが配信されますが、遠くケニアのナイロビや、孫子が倉敷に暮らすおばあちゃまなど、たくさんの方が声を寄せてくれています。ホームページhttp://www.ohara.or.jp/のトップでアドレスを書き込むだけで参加できますから、奮って輪に加わってください。
 こうして美術館が様々な方を結び結節点になれば願ってもないことです。

[やなぎさわ ひでゆき]

ArtShopArchivesArt LinksArt Words
prev up next
E-mail: nmp@icc.dnp.co.jp
DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd. 2002
アートスケープ/artscape は、大日本印刷株式会社の登録商標です。