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アートにであう夏 VOL.4 クイズdeアート
川浪千鶴[福岡県立美術館] |
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●学芸員レポート 子どもたち(小学校中学年くらい)をターゲットにした、福岡県立美術館初の体験型子ども美術展「クイズdeアート」もやっと終了。そこで、つくづく思い知ったことと、これからの美術館のあり方について感じたことを少し書き連ねてみます。 文化祭前夜と称された、パネルやぬり絵原画や絣カードなどなど大小多種多様なつくりものづくりは、学芸課スタッフ全員と博物館実習生の力も借りて、のべ2週間がかり。ところがオープン後、予想以上に追加のパネルやつくりものの補充が出るわ、出るわ…。これは、学芸課スタッフが頭でシュミレーションした構成と、鑑賞者の方々の実際のアクションにかなりのズレがあったことを表しています。遊び方の説明がわからない、クイズのパネルが目立たないなどなど、パネル類のつくりかえ、貼り直りは最も多かった修正・追加製作でした。ほかにも、遊びがワイルドになり過ぎて作品が危険なところや、くぐり戸で頭をぶつけたり、お立ち台から落ちそうになったりなど子どもたちが危険なところは、最優先で改善。一通りの修正箇所が終わったのが2、3週間後、会期の半ばは過ぎていました。 「体験型の展覧会はメンテが命」 会場の追加製作や修正を行いつつ、平行して行い続けたのがツール類のメンテでした。夏休み初日、うれしいことに70名もの子ども会の団体さんが一度に入場。嵐のような2時間あまりを終えると、会場は早くもぼろぼろの状態でした。それ以降、変身コーナーに専用のほうきやクリーナーを装備(鵜匠に変身セットの腰ミノの藁がどんどん抜けるので)、着替えセットは2週間ごとに洗濯するなどのルールもつくりました。サイコロなど動かし方が激しいツールは、補強をしたり予備をつくったり…。会場監視の女性たちがこちらでは色鉛筆を大量に削り、こちらでは着物の繕い物をし、こちらでは久留米絣の機織り体験用の糸を糸巻きに巻きとっていたりといった開閉室時の光景は、のどかというよりも、常に臨戦状態だったといったほうが正しいかもしれません。 「体験型の展覧会の要は、ファシリテイター」 今回は会場に常駐してもらうスタッフを「ハンズさん」と命名し、作品保全に加えて積極的なアートと鑑賞者をつなぎ手として、大活躍してもらいました。展覧会のキャラクターをプリントしたエプロンを身に付けて、クイズに答えた子ども達にポケットからシールを出して配ったり、美術館でのマナーや遊び方の説明をしたりと、1日中立ちっぱなし・動きっぱなしの重労働。その中で、彼女たちが、もっとも気配りしてくれたのが、鑑賞者がリラックスできる雰囲気をつくることでした。ハンズさんとのやりとりが楽しかった、とアンケートに書いてくれたのは、子どもだけでなく大人の方も実はたくさんいらっしゃいました。展覧会を自分仕様で楽しむための、リラックスできる雰囲気づくりは、「もの」や「こと」以上に、「ひと」によるところが大きいと感じました。 小学生までの子どもたちは、ほとんどが家族と一緒に会場を訪れます。家族ぐるみのアート体験の情景はいつ見てもほほえましく、事実親子ともども楽しみました、という感想をたくさんいただきました。 しかし、その一方で、子どもが小さいと迷惑になるから美術館には行けないと思っていた、子どもの鑑賞ペースと親のそれがあわないから親は落ち着いて絵が見れない、など小さな子どもをもった親御さんたちが日頃美術館を利用しにくい現状や理由もみえてきました。 そのためには、託児室などを設けるなどハードの改善はもちろん大事ですが、美術館が「本気で観客に対応しようとしている」態度をまず示すこと、このことがおざなりにされてきた事実に気づかされます。 静岡県立美術館が『今、ここにある風景=コレクション+アーティスト+あなた』展(7月27日〜9月8日)の広報に掲載している「安心情報」< 土・日・祝日に、無料託児サービスあり。(10:30〜16:30)平日は授乳室としてご利用いただけます。お体の不自由な方、盲導犬をお連れの方、当館ボランティアがお手伝いしますので、どうぞお気軽にお申し出下さい。ベビーシート有り。ベビーキープ付きトイレは男女トイレともに有り>を読んで、猛省しきりでした。 また、美術館なんて縁遠いという人たちの応援団のような、つなぎ手たちのシステム(これは美術館にとっても応援団です)に関心を寄せる人たちも増えています。 山本育夫さんが主宰する「つなぐnpo」では、「一般の人々が、ミュージアムや芸術などによりよい状態でふれることができるための、さまざまな<つなぐ>支援活動」として「観客の学校」プロジェクトを始動させ、最近全国的な展開を行いはじめています。美術館のプログラムにあわせるだけではなく、全国どこでも市民がお互いにファシリテイターとなって美術館や博物館を日常的に活用する。そういう利用者本位、市民主体の考え方や行動から見えてくる未来に、私は美術館の夢を重ねてみたいと考えはじめています。 福岡では詩人で美術ライターの中村淳子さんが、2ヶ月ほどまえに「観客の学校」福岡校をひとり立ち上げました。彼女はまず、小さな子どもを抱えたお母さんに、「ママといくはじめての美術館」というリーフレットを通じて、「お子さんとピクニックへ行きませんか?行き先は美術館」と呼びかけています。「美術館でふたつのソウゾウリョクをはぐくむ方法」を教えます、というキャッチも魅力的です。 MOMA のVTC(ヴィジュアル・シンキング・カリキュラム)をもとにした鑑賞の手引きは、中村さんの詩的な表現とデザインでとてもわかりやすくてあたたかい出来栄え。中村さんのこれからの活動に期待するだけでなく、地域のおける美術館の役割をいっしょに模索したいと思っているところです。
[かわなみ ちづる] |
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