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「ギャラリー門馬」http://www.g-monma.comオープン
吉崎元章[芸術の森美術館]
 
札幌/吉崎元章
神戸/木ノ下智恵子
福岡/川浪千鶴
 
会場風景
藤木正則
端聡
 札幌にまたひとつおもしろいアートスペースが誕生した 。閑静な住宅街の何の変哲もない家に一歩足を踏み入れると、そこは広々とした現代美術のギャラリーなのである。自らもアーティストとして活動する門馬よ宇子氏は、以前から自宅を開放して時折自選展や企画展、音楽会などを開催していたが、今回大幅に改装し、3つのフロアが高低をもちながらひとつにつながる魅力的な空間を生み出した。さらに新設した細長い純白のアネックス、そして屋外テラスや小川が流れる緑豊かな沢までも備えた「ギャラリー門馬」は、他では見られないほど心地よく変化に富んだギャラリーである。何よりこのスペースを実現させた門馬よ宇子氏に敬意を表したい。1919年生まれの彼女の瑞々しい感性と向学心にはいつも驚かされるが、常に新しいことに楽しみながら挑戦していく姿勢は、若いアーティストや我々も見習わなければならないところであろう。
 現在、オープン企画「Northern Elements」が北海道のアーティスト16人を集め、開催されている。今後の活動が気になるところであるが、貸し画廊としても機能するアネックス部分を除いて、基本的には企画で展開していくという。かつて札幌におもしろいアートスペースができながら経営的な理由で閉じてしまったところが少なくないだけに不安もないわけではないが、彼女に限ってはきっとそんな心配は無用であろう。8月10日のオープニングレセプションには120人以上が集まったという。また、若いアーティストが彼女を手伝いために入れ替わり訪れるのだという。多くの人々に慕われている彼女がはじめたこの「ギャラリー門馬」は、単に展示スペースとして機能するのではなく、札幌の現代美術を志す人々のたまり場としてきっと愛され続けるにちがいない。ここは、美術に対するほのぼのとした愛情に満ちた空間である。

 


 

 

会期と内容
ギャラリー門馬
札幌市中央区旭ヶ丘2丁目3-38 電話011-562-1055
営業時間:11:00-19:00

オープン企画「Northern Elements」
Part1「空」
参加作家:伊藤ひろ子、伊藤隆介、上遠野敏、國松明日香、佐々木徹、高幹雄、矢崎勝美、吉田茂
会期:2002年8月1日(木)〜9月5日(木)

Part2「大地」
参加作家:阿部典英、一原有徳、坂巻正美、楢原武正、端聡、板東史樹、丸山隆、米谷雄平
会期:2002年9月11日(水)〜10月4日(金)

 

 


学芸員レポート
旭川彫刻サポート隊

 公園の内、商店街、橋の上、ビルの前など、あちらこちらで目にする彫刻。北海道だけでもその数は1600点を超えるという。全国的にはどれぐらいの数になるのだろうか。数十年にわたって文化的な潤いのある街づくりの一環として置かれ続けてきた彫刻も、人々の眼を楽しませるはずが、逆に不快感を与えてしまっている例が少なくないのも事実である。ブロンズには白い縦筋が幾筋も走り、鳥の糞が頭に積もり、いたずら書きや傷、シールが貼られていたりするのも珍しくない。ほとんどメンテナンスされないまま放置されている彫刻は、設置するだけで満足し維持管理に予算が回らない行政にも大きな問題があるだろう。
 そうしたなか旭川において自分たちの街を彩る彫刻を自分たちの手できれいにしようというボランティアが活動を始めた。名付けて「旭川彫刻サポート隊」。旭川はもともと、日本の彫刻界において最も権威のある賞のひとつである中原悌二郎賞を出すなど、早くから彫刻に対する関心が高く、街なかにも多くの彫刻が設置されている。中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館の呼びかけに、高校生から高齢者まで67人の有志が屋外彫刻を清掃するために集まった。5班に分かれ市内53点の彫刻を分担し、点検や清掃を続けていくという。
 先日、その講師として招かれて旭川を訪れた。彫刻清掃の専門家ではないながらも、札幌芸術の森野外美術館の開館時から16年間携わってきた経験談として話をさせてもらった。材質や形状、環境が異なるなかでは彫刻清掃のマニュアルなどあるはずもなく、開館当初から鋳造業者やステンレス業者などの話を聞きながら、試行錯誤の繰り返しであった。現在は大体半年ごとの大がかりな清掃などはあるものの、それ以外はほとんど毎日、乾拭きや埃払いが基本である。

会場風景

 一般的に屋外彫刻の保全において最も悩ませているのが酸性雨の問題である。ブロンズ(青銅)が安定した金属であることは出土する古代の遺物がほとんど完全な形で残っていることでも証明されているが、近年の酸性雨にはいとも簡単に侵されてしまう。それも都会だからといって酸性雨の濃度が高いわけではなく、日本中ほとんど変わらないらしい。逆に都会の方が空気中の浮遊物に中和されて濃度が低いそうである。それでもいまのところ札幌芸術の森の彫刻にはそれほど目立った変化は出ていないのはなぜか。大気環境の専門家から聞いた話によると、酸性雨自体は彫刻に降り注いでもすぐに流れ、あるいは乾いてしまうためにそれほど悪影響を与えないという。それよりもやっかいなのが、酸性を帯びた塵なのだそうだ。凹みにたまり、それが雨で溶け出してさらに高濃度になるのだという。それならば、塵がたまらないように心がけていれば、ある程度被害は防げるはずである。そんなことを知らずに以前から札幌芸術の森で毎日行っていた清掃が、作品にはとてもいいことだったということになる。「彫刻は、日々の愛情によって、きれいに保つことができる。」それが「旭川彫刻サポート隊」に一番に伝えたかったことであった。
 市民が彫刻をきれいにするために立ち上がった旭川の例は、これからのパブリックアートにおいてより好ましい前例となることだろう。このような動きが全国的に広まることを望みたい。

[よしざき もとあき]

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