DNP Museum Information Japan - artscape
Museum Information Japan
Exhibition Information Japan
Recommendations
Exhibition Reviews
HOME
Recommendations
地元作家の展覧会―亀山良雄展を開くにあたって
吉崎元章[札幌・芸術の森美術館]
 
札幌/吉崎元章
神戸/木ノ下智恵子
福岡/川浪千鶴


亀山良雄展
 地方の美術館にとって、泰西名画や世界的に活躍するアーティストの展覧会だけではなく、地元で活躍する作家を紹介していくことは、地道ながら重要な活動のひとつである。個々の作家の作品を振り返りながら位置づけていくことの積み重ねが、その地域の文化に大きく関わることになっていくものであろう。札幌は180万人を超える都市でありながら、そうした活動が充分であったとは言えない。しかし、最近札幌に限らず北海道内の美術館では地元ゆかりの画家の展覧会がかなり目立ってきている。この秋から冬にかけての時期、芸術の森美術館の亀山良雄展だけではなく、ほぼ時を同じくして北海道立帯広美術館では寺島春男展、北海道立旭川美術館では因藤壽展、北海道立釧路芸術館では赤穴宏展、北見の北網圏文化センターでは神田一明・岸本裕躬展が開かれている。この時期に地元作家の展覧会が集中する背景には、寒さが厳しい北海道においては美術館の入館者が夏場に集中するという事情がある。夏のいい時期にはより多くの観覧者が期待できる展覧会で年間の入場者数を稼ぎ、地元作家の展覧会のようにどの季節でもある程度の入館者が見込めるものは、さすがに真冬というわけにはいかないまでも、このころになってしまうのである。爆発的な入館者は望めないものの、準備の労力や経費はかなりかかるうえ、美術館の特色が色濃く出て学芸員の腕が試されるものであるだけに、いい時期にやりたいというジレンマもある。
亀山良雄チラシ
 芸術の森美術館では1990年に開館以来、札幌の美術家の回顧展を毎年開催してきた。列挙すると、画家では小谷博貞、一木万寿三、栃内忠男、栗谷川健一、鎌田俳捺子、国松登、伊藤正、伏木田光夫、菊地又男、八木保次・伸子、彫刻家では本田明二、砂澤ビッキである。多くの場合、開催当時は現役で活躍していた作家である。彼らから直接貴重な証言が得られるだけではなく、作家本人にとっても、これまでの仕事を体系的に振り返り次のステップにつながったものと自負している。作家とともに故郷を訪ねたり、夜遅くまで語るなどして芸術観やその背景を探る過程は、それまでしっかりとまとめられたことがないだけに、やり甲斐があり楽しい作業であった。
 一方、現在芸術の森美術館で開催中の亀山良雄は1997年に亡くなった画家である。虚実の世界が交差する独特な作品や、北海道美術協会(道展)の運営に関わりその発展に尽力したことなどにより北海道画壇にとっては重要な作家であり、以前から候補に挙がっていたひとりである。どの作家を取り上げるかということもかなり気をつかうところであり、本来的には作品本位でありつつも、できるだけ作家が生存中に開催し多くの情報を得ておきたいという気持ちもあって物故作家は後回しにしてなっていたのも事実である。

 実際に展覧会の可能性を探るべく亀山のアトリエを調査てみると、作品が年代を追って揃っていながらその点数はかなり限られていた。過去の作品でも納得のいかないものは、切り裂いたり燃やしたりして廃棄してしまったというのである。手帖にリストをつけながらこれまでの作品を常に整理していたともいう。作家は多かれ少なかれそうした傾向はあるだろうが、作風の変遷のなかで現在を意識するとともに、どのような画業をつづっていくかを人一倍気にしていたようだ。そのため、回顧展を開こうとした場合、彼が取り繕った画業からほとんどはみ出すことができないのである。それは確かに尊重すべきものではあるが、彼の敷いたレールの上をただ走るだけの展覧会ではなく、もっと赤裸々な部分も出すことはできないかということが展覧会開催にあたってのひとつの課題であった。そのときに目にとまったのがアトリエの片隅にうずたかく積まれていた大量のスケッチブックである。そこには、キャンヴァスに向かう前に繰り返したエスキースが数多く描かれており、「絵はまず構成」と語る彼の制作姿勢を顕著に物語るものであった。遺族の承諾を得てそれらも展覧会に出品することで、表面的な紹介に終わらない展覧会になったことと思う。
 現代における不安を漂わせる亀山良雄の世界を66点の油彩と、エスキースなどの資料でたどるこの展覧会を多くの人にぜひ見てもらいたい。


会期と内容
会期:
亀山良雄展〜不安のなかのぬくもり 2002年10月26日(土)〜12月15日(日)
料金:一般700円、高大生300円、小中生140円

会場:芸術の森美術館 札幌市南区芸術の森2丁目75 tel.011-591-0090
休館日:
月曜日
URL http://www.artpark.or.jp

[よしざき もとあき]

ArtShop ArchivesArt LinksArt Words
prev up next
E-mail: nmp@icc.dnp.co.jp
DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd. 2002
アートスケープ/artscape は、大日本印刷株式会社の登録商標です。