「椿昇 国連少年」展
木戸英行[CCGA現代グラフィックアートセンター]
札幌/吉崎元章
福島/木戸英行
東京/増田玲
高松/毛利義嗣
「椿昇 国連少年」展
今回の米英によるイラク侵攻は、その賛否はどうあれ、世界中の大多数の人にとって、国連の存在意義を問い直さざるを得ない出来事だった。もともと2004年に実現予定だったプロジェクトを、急遽前倒しして開催したという椿昇の「国連少年」展は、あるべき国連の姿を、架空の国連平和維持軍をとおして提示する試みだ。
劣化ウラン弾の回収ロボット「テツオ」君は巨大な熊のぬいぐるみ。放射能汚染で薄緑色にただれた皮膚と真っ赤に充血した目で、轟音を発しながら劣化ウラン弾をひとつずつ食べていく様子は思わず涙を誘う。次の部屋の特別にデザインされた国連軍のユニフォームは、戦わずしていかに生き延びるかがテーマ。敵との遭遇時に地面に伏して死んだふりをするというユニフォームは、裏返すと血糊の海に見えるマントを備え、戦車に轢かれたキャタピラの痕が描かれている。もうひとつは土左衛門のふりをして水に浮かぶタイプ。いずれも、これを見た敵を脱力させ戦闘意欲を喪失させようという作戦だ。
脱力といえば、対人地雷除去ロボット「ペンタ」は、ぼくが会場を訪れた当日、足の一本が折れるという故障のために動くところを見られなかったが、周囲に貼り巡らされたおびただしい地雷のシールを前に、傷ついた足を包帯状のサラシ布で吊られたままの姿は、逆に、今も世界各地で一般市民を脅かしつづける無数に残存する地雷に対してほとんどなすすべをもたない、われわれの無力感を象徴するようだった。
前線基地を思わせるテント内では、テロリストの拠点を示す光点が明滅する世界地図を前にした観賞者自身の手に、彼らを攻撃する長距離ミサイルの発射ボタンが委ねられる。バクダッドを空爆する巡行ミサイルのテレビ映像を、居間で夕食を食べながら安穏と見ている自分を意識するのは、何とも心地悪いものだが、ここでも結局は、テレビゲームよろしくミサイルが目標に到達する様子を見たくて発射ボタンを押してしまう。しかも、発射の前には国連安全保障理事会さながらに、攻撃の賛否を問う投票の儀式まで用意されており、これは遊びだから、と自ら言い聞かせつつ、「賛成」、「発射」、とボタンを押すのだ。
椿とその仲間たちが仮想した国連軍の姿は、一見かわいらしくユーモアたっぷりながら、本質的にはシニカルで、国連平和維持「軍」という自己矛盾に対する無力感を内包している。不条理な現実に対するアート側からの精一杯の抵抗、という感じだ。でも、そんなふうに青臭くて弱々しいからこそアートが好きなんだよなと、帰路の車中、ハンドルを握りながら、あらためてそう思った。
会期と内容
●「椿昇 国連少年」展
作家:椿昇 空間設計:今村創平 サウンド設計:有馬純寿 コスチューム:TIME TRON CG:福田泰崇 WEB:山本輝 シナリオ:ドミニクチェン、石橋源士 椿組:TEAMIMI(上田譲、佐原正規、富田浩司、福島正和、福永篤太郎)
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー 水戸市五軒町 1-6-8 TEL.029-227-8120
会期:2003年3月23日(日)〜6月8日(日)
休館日:月曜日。ただし5月5日(月)は開館。翌5月6日(火)休館
入場料:一般800円、中学生以下、65歳以上、各種障がい者手帳をお持ちの方は無料
主催:(財)水戸市芸術振興財団
企画:水戸芸術館現代美術ギャラリー
企画ディレクション:森司(水戸芸術館現代美術ギャラリー学芸員)
URL:
http://www.arttowermito.or.jp/
[きど ひでゆき]
E-mail:
nmp@icc.dnp.co.jp
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