現在、5月24日からはじまる展覧会「牛腸茂雄展」(5月24日−7月21日)の準備を進めています。この展覧会は、建物のリニューアルによってできた新しいスペース、ギャラリー4を使って開催するもので、同時期、1階の企画展ギャラリーでは「地平線の夢
昭和10年代の幻想絵画」展(6月3日−7月21日)が開催されます。
牛腸茂雄(ごちょう・しげお)は三冊の写真集と一冊のインクブロットという技法による画集を遺して、1983年に36歳で世を去った写真家です。その仕事は1992年に『デジャ=ヴュ』誌で特集を組むなど、写真評論家・飯沢耕太郎氏による一連の紹介により、90年代に入って静かな関心を集めてきました。僕自身もそうした再評価によって、この写真家を知り、関心を持った一人ですが、今回の展覧会へとつながる契機としては、1999年に担当した「大辻清司写真実験室」展と、昨年の「未完の世紀」展があります。後者「未完の世紀」は400点近い作品によって日本の20世紀美術をたどる大展覧会でしたが、それでも到底充分ではなく、とりわけ写真についてはきわめて限られた作家・作品しか取り上げることができませんでした。写真のパートの担当として、そこであえて牛腸を入れるのは、ある意味で問題提起的な試みでもあったと思います。しかし「人間と物質−1970年代以降」という章に展示された牛腸の作品は、そこを起点とした何かが、現代の写真表現にまでつながってきているというたしかな手応えを感じさせるものでした。それがどういうものなのか。牛腸が師事した写真家・大辻清司の写真をめぐる実践と思考の軌跡をてがかりにして牛腸の仕事を見ていくことで、それは少しはっきりするのではないか。そういう思いで今回の展覧会の準備を進めています。
展覧会は代表作となった写真集『SELF AND OTHERS』を中心として構成されます。佐藤真監督の映画「SELF AND OTHERS」(2000年)によって牛腸の存在を知った方もいるのではないかと思いますが、そうした方々にもぜひ会場で牛腸の作品世界に触れていただきたいと思っています。