inter locality−肉語入門+ アートにであう夏 VOL.5 ふたたび!クイズdeアート 福岡/川浪千鶴[福岡県立美術館]
福岡県立美術館で開催中の「ふたたび!クイズdeアート」展の目指すところは、美術館初体験の子どもたちに、親子や家族や友達同士、みんなでアートを楽しんでもらうというもの。夏休みの思い出になる展覧会、という内部キャッチもあったりします。さて、その展覧会に、先日一見とても変わった、でもこの展覧会にぴったりの来場者がありました。 伸縮性のあるカラフルな布のチューブにすっぽり覆われたふたり組み。裸足の足先だけが見えています。無言で、しかし楽しげに館内、会場内を歩き回り、踊りまわり、出くわす人たちと何やら布ごしのコミュニケーションをとりあっています。チューブの中にいるのが、片方は女性でもう片方は男性だとわかるのは、中の人が全裸なので、腰をひねったり、手をつっぱたり、座り込んだりするなど、動くたびに体のラインが浮かび上がってくるからです。 とはいえ、なめらかな布に浮かぶ匿名の身体は、性的なイメージというよりも、なぜか自分の体の延長のような、奇妙な親しさを感じさせます。「肉語入門」というパフォーマンスのタイトルには、ちょっとギクッとさせられますが、作家によれば、言葉の限界を超えて、「もっと敏感に、単純で強く、効率的に、より正確に、コミュニケーションをとる」という意味が「肉語」には込められているそうです。 そうした親しさや直截さのせいか、大半の人たちは、一瞬驚いても、あとはこの「一見変わった人たち」と、すぐに親しげに対話し始めます。まずは布越しに、にゅーと伸びてきた手を握りあったり、抱き合ったり。肩をもんでもらったり、一緒に写真を撮ったり、芳名帳にサインをもらう人もいたり。 ときには、まったく見なかったことにしようとする人もいます。彼らがコミュニケーションを無理強いすることは決してありませんが、その人の側にじっとたたずんだり、そぉ〜と袖をひっぱたりして。でも「はいはい、あとでね」とすげなくかわされて、いじけたりするシーンも。 「ふたたび!クイズdeアート」展では、額縁の中に入って絵のモデルさんになろうのコーナーで大胆なポーズをとったり、宇治山哲平のマグネットボードの前で子どもと一緒に作品をつくったりと、この「一見変わった人たち」にも体験型の展覧会は堪能いただけようです。最後は喫茶室に乱入し、マスターの歓待を受けていました。 布の中身は、山形県から車で3日がかりで福岡入りした鈴木順子さんと斉藤信一さん。東北芸術工科大学出身のアーティストです。北九州市小倉の「成長型アートアートスペースlevel1(レベル1)」の代表・阿部幸子さんと鈴木さんが今年函館市の「民宿美術」で出会ったことから端を発し、レベル1の主催で、福岡の公立美術館3館を会場にした、しかも美術館で全裸になってもOKという、これまでに例のない連続パフォーマンスは実現しました。 最後に付け加えれば、希望する人はだれでも、この布の中身になることができます。(写真で紹介した布の中にも、実は作家以外の人が多数混じっています)「肉語入門」というタイトルの「入門」は、自前のリアリティーをあなたも探ってみませんか、という作家からの呼びかけでもあります。
[かわなみ ちづる]