船をつくる話
灰塚アースワークプロジェクト+広島市現代美術館
広島/柳沢秀行[大原美術館]
東京/南雄介
神戸/木ノ下智恵子
広島/柳沢秀行
福岡/川浪千鶴
とってもシンプルで夢のある話。
1994年以来続いてきた
灰塚アースワークプロジェクト
。広島県もすでに島根県境と近い三良坂、吉舎、総領の3町にまたがる灰塚地域に建設される洪水調節用のダムをめぐり、ダム完成後に新たな形で立ち現れる周辺地域を、自然や文化、アートを焦点にして見つめ直し、結び付けようというもの。
これまでも岡崎乾二郎氏などを中心に、作品設置、シンポジウム、ワークショップ、また美術家志望の若者たちなどを対象としたサマーキャンプや、若手作家の作品を周辺住民の家にホームステイさせるなど多彩な活動が行われてきた。
その焦点のひとつとして進められてきたのが、PHスタジオによる「船をつくる話」。
工事に伴い伐採される丸太で巨大な船を作り、ダム完成時には水に浮かせて、その船を山の頂上に乗せようというプロジェクト。
灰塚アースワークプロジェクトの当初から参加していたPHスタジオは、毎年現地に滞在しながら、このアイデアを煮詰めるところから始めて(94〜96)、ついでコンセンサス形成(98〜99)、具体的な材料調達交渉(99)、現地制作(00〜)と進めてきた。
いよいよ、今年7月をもって、ダム工事進展にともない船の制作場所が立ち入り禁止になる。で、そのお披露目というわけでもないが、タイミングよく広島市現代美術館が、このプロジェクトを紹介する展示を、同館ミュージアムスタジオおよび広島市にある旧日本銀行広島支店で開催、あわせてシンポジウムなどの関連事業を開催した。
なにぶんにも現地と広島市は、最短で車利用で2時間ほどはかかるが、遠来のお客様が、これまでの経緯やこのプロジェクトの概要をつかむためには、広島市に足を運ぶのもよいだろう。
しかしなんといっても美術館側の功績は、灰塚アースワークプロジェクトという、あまりに多岐に渡り、またあくまで周辺住民を主たるオーディエンスとしてきたプロジェクトから、「船をつくる話」をピックアップして、このタイミングでフレームアップしたこと。
わかってはいたけど、やはりこうしたタイミングで美術館がダイジェスト版を提供し、かつ広域に渡って広報することで、実際に現地に足を運ぶにおよんだ観客も多いだろう。
さて実際に作られている船の見事なこと。
二つの川の合流点になる広い河原に、全長60m、幅12m、高3m、使用した桧の丸太約1700本の壮快な姿を見せている。
ここ最近、これだけシンプルかつ見栄えのする「作品」を見ることも少ないゆえ、造形物としてこれを見に行くだけでも十分。下部構造が出来上がった段階でも、それなりのボリュームがあったが、やはり広々としたデッキが完成すると、これが山の上へというイマジネーションも盛り上がる。
さて、ほとんどとれない夏休みの一日。私も小学生と幼稚園児の子ども達の慰安を兼ねて出かけたが、岡山からでも車で2時間の遠距離を納得させて連れ出すのには、この作品はよかった。
「ダムって知ってる?」
「大きなお船ができてるんだ。ダムに水が貯まると、その水に浮かんで、大きなお船が山の上に登るんだって」
これだけでも子どもたちは目をらんらん。
実際、現地に入れば、これだけの広域が水没するのかということを、湖底となる道路を走りながら、子どもと一緒に現地教育。さらに船を見つけ
て大騒ぎ。そのうえ大型の構造物となれば、彼らは「早く登りたい」となるし、足元にはたくさんの植物やトンボもたくさんで、はからずも理科のお勉強。
でも、こわごわながらデッキに昇ると(以前、じんじんを見て腰を抜かした幼稚園生の次男は、やはり半分腰を抜かした)開口一番。
「おとうちゃん。この船、どの山に登るの?」と周囲の山々を見渡している。
ダムに沈むこと、船が山に登ることにイマジネーションを羽ばたかせ、そして足下の自然を見つめる。まさに、今回の「船をつくる話」プロジェクトの狙いにぴったりはまった彼ら。いや、今夏、遠来の観客も少なからず同じような体験を持つはず。
ここに至るまでは、いつもながら丁寧で周到な活動をなされたPHスタジオのみなさん。実際、このプロジェクトに携わった人達は、遠来の我々には計り知れない、もっと大きなものを受け取ったはず。2006年船が山に登るまで頑張ってください。
しかし水が貯まってゆく時、どんなふうに浮かぶのかな?とか、その時に船に乗ってたら怖いだろうな?とか、どうやって船漕ぐのかな?なんて、ほんとあれこれ想像をめぐらせてしまいます。ほんとに、その時を見たい。
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学芸員レポート
7月4日(金)から7日(月)まで、大原美術館周辺の美観地区(倉敷川周辺)などで「くらしき花七夕祭り」を開催した。
これは、大原美術館での個展のため、1ヶ月滞在制作した眞板雅文さんが、しっかり街の皆さんと仲良くなって、そこから盛り上がって開催された企画。
とはいえ、たった3ヶ月ほどの準備期間で、倉敷市観光振興課、倉敷観光コンベンションビューロー、倉敷市商工会議所と、そこに名を連ねる企業の皆々様、それに大原美術館が名を連ねての実行委員会を作っての大型プロジェクトと変貌。
基本的な七夕飾りは、眞板さんがデザイン、制作して、倉敷川に面した各戸に設置。それぞれに花が飾られ、布や水引があつらわれた、それは立派なもの。そのうえ、川面には、竹筏のうえにとりどりの盛り花が飾られ、さらに眞板さん特製の竹のオブジェまで登場。
新暦の七夕は、梅雨の真っ最中。日々、空を見上げながらも、倉敷川にかかる石橋の上では、喜多流シテ方 大島衣恵さんの能(すばらしく美しい!)、大原美術館前では、ラストエンペラーのテーマ曲演奏で知られる、姜建華の二胡コンサート (ものすごい贅沢!)などなどが実施。
また「浴衣で来てください。着付けします。特典もいっぱい」と呼び掛けたところ、来るわ、来るわ、浴衣でそぞろ歩く人の波。浴衣着付けをボランティアで助けてくださった皆さんにもほんとうに感謝。
夜には、川沿いに竹飾りに仕込んだロウソクが点灯。人工照明で大音響でもなく、倉敷の景観を活かした、それは美しいものでした。
私は、その事務局。
毎日、作業着で下仕事して、10分で浴衣に着替えてオフィシャル出番。かけがえのない体験でした。
[やなぎさわ ひでゆき]
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DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd. 2003
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