アウトサイダー・アート(アール・ブリュット)
- Outsider Art(英), Art Brut(仏)
- 更新日
- 2024年03月11日
既存の芸術システムの「外部」=アウトサイドに位置づけられた人々の手からなり、また、そう認識するに足る独創性を持つと判断された作品。1945年、J・デュビュッフェは精神疾患患者など美術の正規教育を受けていない人々が他者を意識せずに創作した芸術をアール・ブリュット(仏)=「直接的・無垢・生硬な芸術」と呼んで高く評価した。アウトサイダー・アートはそれに対応する英米語として、72年、R・カーディナルによりつくられた言葉である。その際、「表現に対する衝動」を持つ制作者が「因習的な美術史の文脈化を拒み、管理されていない方法においてその衝動を具現化」した芸術を示すと整理され、その後の判断基準となった。実際、芸術的な訓練や影響を受ける環境になかった精神疾患(特に統合失調症)患者、知的障害者、交霊体験者、あるいは野宿生活者の作品から独創的なものが発見/再発見され評価されてきた。例えば、A・ヴェルフリ、アロイーズ、M・ラミレス、H・A・ミュラー、H・ダーガー、M・ギル、A・ルサージュ、B・トレイラーらで、いまではアウトサイダー・アートの「古典」または「巨匠」と呼ばれる。しかし、その中心であった統合失調症患者も近年では精神科病床の大幅減少と抗精神病薬の進歩などによって制作者が減り、アウトサイダー自体が流動的な存在といえる。また、現代美術の「インサイド」が多元化している現在、作品自体に主流とは異なる独創性を見出すのも困難である。さらにはイン/アウトの区分への倫理的な問いも含め、つねに解釈され続けねばならない領域であろう。それでもアウトサイダー・アートが美術市場で価値を持つのは事実であり、それにはローザンヌのコレクション・アール・ブリュットやパリのabcd財団などの研究・所蔵施設、「パラレル・ヴィジョン」展(1992-93)、「インナー・ワールズ・アウトサイド」展(2006)などの展覧会、また89年創刊の専門誌『ロー・ビジョン』の寄与がある。多少文脈が異なる日本においては従来から知的障害児・者が中心的な制作者であり、近年「JAPON」(日本のアール・ブリュット)展(ローザンヌ、2008)、「アール・ブリュット・ジャポネ」展(パリ、2010)に出展され国際的にも注目を集めた。
補足情報
参考文献
『アウトサイダー・アート 芸術のはじまる場所』,デイヴィド・マクラガン(松田和也訳),青土社,2011
『美術手帖』第61巻第923号,特集=アウトサイダー・アートの愛し方,美術出版社,2009
『アウトサイダー・アートの世界 東と西のアール・ブリュット』,はたよしこ,紀伊國屋書店,2008
『ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で』,ジョン・M・マグレガー(小出由紀子訳),作品社,2000