『明るい部屋 写真についての覚書』ロラン・バルト
- La Chambre claire: Note sur la photographie, Roland Barthes
- 更新日
- 2024年03月11日
1980年に出版されたロラン・バルトの最後の著作。亡くなって間もない母の少女時代の写真(「温室の写真」)を中心に据え、自伝と写真論、追悼文と小説とを交錯させたようなテクストである。一人称単数形で語る主体として登場するバルトは、私的な感情から出発して写真の本質を掘り下げていくのであるが、第一部では記号論的な分析が展開されるものの、突然「前言取り消し」が行なわれ、第二部では一転して写真の光とその指示対象へと向かう。言い換えれば、記号としての写真にかわってその触覚性や時間性が前景化されるのである。母親の写真を一枚一枚辿っていくという現象学的な方法でバルトが見出した写真の本質は、「それはかつてあった」という「実在」との結びつきであり、安定した読み取りの体系に亀裂を生じさせる「手に負えなさ」であった。写真が喪失や死の経験との関わりのなかで論じられており、ヴァルター・ベンヤミンの『写真小史』(1931)やスーザン・ソンタグの『写真論』(1977)と並んで写真論の古典として広く読まれている。
補足情報
参考文献
『そのたびごとにただ一つ、世界の終焉1』,ジャック・デリダ(土田知則、岩野卓司訳),岩波書店,2006
『「明るい部屋」の秘密 ロラン・バルトと写真の彼方へ』,青弓社編集部,青弓社,2008
『写真の存在論 ロラン・バルト「明るい部屋」の思想』,荒金直人,慶應義塾大学出版会,2009
Photography Degree Zero: Reflections on Roland Barthes’s Camera Lucida,Geoffrey Batchen ed.,MIT Press,2009
『明るい部屋 写真についての覚書』,ロラン・バルト(花輪光訳),みすず書房,1985