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アブジェクション/おぞましいもの

Abjection
更新日
2024年03月11日

ブルガリア出身の思想家ジュリア・クリステヴァ(1941-)が著書『恐怖の権力──〈アブジェクシオン〉試論』(1980)のなかで用いた概念。一般的に、対象に関わる場合は「おぞましいもの」、行為に関わる場合は「棄却」と訳されるが、原語のabjection(仏:アブジェクシオン、英:アブジェクション)にはこの対象、行為双方のニュアンスが含まれる。 「アブジェクション」とはもともと精神分析の用語であり、主客未分化の状態にある幼児が、自身と融合した状態にある母親を「おぞましいもの」として「棄却」することを意味する。クリステヴァは、『恐怖の権力』以後の著作でもこの言葉をたびたび用いているが、特筆すべきはそのイメージ論や芸術論への応用である。その代表例が、クリステヴァ自身が企画した展覧会「斬首の光景」(ルーヴル美術館、1998)に合わせて刊行された展覧会カタログである。同カタログのなかで、クリステヴァは「アブジェクション」をキーワードのひとつとして用いながら、デッサンを中心とする同展の出品作品を大胆な仕方で論じている。 他方、クリステヴァの「アブジェクション」という概念は、ロザリンド・クラウス、イヴ=アラン・ボワの企画による展覧会「アンフォルム」(ポンピドゥ・センター、1996)のカタログのなかで強く批判された。クラウスとボワによる批判の背後には、クリステヴァによる「アブジェクション」(およびそれに影響を受けたアブジェクト・アート)と、彼らの提唱する「アンフォルム」をそれぞれ実体的、操作的なものとして差別化せんとする批評的戦略が読み取れる。

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参考文献

『アンフォルム──無形なものの事典』,イヴ=アラン・ボワ、ロザリンド・E・クラウス(加治屋健司、近藤學、高桑和巳訳),月曜社,2011
『恐怖の権力──アブジェクシオン試論』,ジュリア・クリスティヴァ(枝川昌雄訳),法政大学出版局,1984