移動派
- Передвижники(露)/Wanderers(英)
- 更新日
- 2024年03月11日
ロシア初の独立芸術家団体。アレクサンドル2世治下の1870年に設立。63年にペテルブルグ美術アカデミーから追放されたI・クラムスコイら14人の学生が芸術家協同組合を結成。チェルヌイシェフスキーの社会主義思想の影響下で農奴制や資本主義を告発する作品を制作した。70年にモスクワとペテルブルグの進歩的芸術家が集まり移動派美術展協会を設立、ロシア美術の成果を国内各地で知らせる目的で71年11月にペテルブルグ美術アカデミーで展覧会を開催、1923年までにペテルブルグ、モスクワなどの諸都市で計48回の移動展を開催した。同時代の主要な画家の多くが参加した移動派は批判的リアリズムと呼ばれる写実主義の手法でロシアの民衆の歴史、風景、民俗学的題材を描き、批評家スターソフらの支持、庇護を受けた。1880年代に最大の評価を得て20世紀初めまでにロシアの主要美術学校の教職の大半を占めるに到り、1932年以降はソヴィエト社会主義リアリズムの先駆として権威化された。主要な作家としてクラムスコイの他にI・レーピン、V・スリコフ、V・ヴァスネツォフ、I・シーシキン、V・ペロフ、N・ゲー、V・マコフスキー、I・レヴィタン、V・セロフら。モスクワの実業家パーヴェル・トレチャコフは移動派の作品蒐集や移動派作家への著名文化人の肖像画発注を通じて支援を行ない、ロシアの歴史的絵画のコレクションと合わせてトレチャコフ美術館を創設した。日本では、近年、Bunkamuraザ・ミュージアムが国立トレチャコフ美術館の所蔵作品を集めた「忘れえぬロシア-リアリズムから印象主義へ」(2009)、「レーピン展」(2012)で移動派の活動の一端を紹介した。
補足情報
参考文献
『世界美術大全集 西洋編 21 レアリスム』,「移動展派の作家たち」,新田喜代見,小学館,1993
Russian Realist Art,Elizabeth Valkenier,Columbia University Press,1989
『ヴォルガの舟ひき』,イリヤ・レーピン(松下裕訳),中公文庫,1991