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ヴァナキュラー写真

Vernacular Photography
更新日
2024年03月11日

「ヴァナキュラー(ある土地に固有の/口語的な)写真」とは大量に存在するにもかかわらず、写真史の周縁に位置してきた写真である。戦後に欧米で成立した写真史は作家による表現の歴史、あるいは写真技術の発展の歴史として語られてきたがゆえに、写真メディア特有の現象というものが記述の対象外に追いやられることも少なくなかった。例えば職業写真家や無名の職人、あるいは素人の手によって制作されたアノニマスな写真群は、美的価値や伝達的価値が低いと見なされ、これまで写真史の対象から排除されてきたわけだが、近年写真史家のジェフリー・バッチェンらの仕事によってこうしたヴァナキュラー写真にもスポットライトが当てられている。バッチェンは自身のヴァナキュラー写真コレクションを中心として「私を忘れないで 写真と記憶」展(ファン・ゴッホ美術館)や「時の宙づり 生と死のあわいで」展(IZU PHOTO MUSEUM)なども企画しており、髪の毛やブローチ、手紙、花、彫刻などさまざまな物質と組み合わされた肖像写真の形式に着目している。こうした肖像写真は、装身具、調度品、儀礼の道具として一般家庭内で鑑賞されることが多く、一定のステレオタイプをなぞっているがゆえに鑑賞者の集団的な欲望が反映されているように見える。バッチェンはこれまで見過ごされてきたこうしたヴァナキュラー写真を再検討することで、従来の写真史を「もうひとつの写真史」へと作りかえようとするのである。

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補足情報

参考文献

『時の宙づり 生・写真・死』,ジェフリー・バッチェン、甲斐義明、kohara(甲斐義明訳),IZU PHOTO/NOHARA,2010
『SITE ZERO/ZERO SITE』No.3,メディア・デザイン研究所,2010
『photographers’ gallery press』no.7,特集=写真史を書き換える 写真史家ジェフリー・バッチェン,photographers’ gallery,2008