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ヴィデオ・フィードバック

Video-Feedback
更新日
2024年03月11日

電子映像=ヴィデオにおいては、閉回路的な電子信号のシステムを組むことによって、出力された信号をもう一度入力へと入れ直し、回路内を信号が無限に循環・暴走する状況が作り出される。これを電子映像で行ない、サイケデリックな模様などを無作為に生み出したり、人間がそこに介入してズレを増幅させたりして、映像表現に使用するのがヴィデオ・フィードバックである。それはマイクのハウリングやエレキギターのフィードバック音と原理的には同じものである。最も知られたヴィデオ・フィードバックはモニターに接続したカメラでモニター自体を撮影したときに起こる、合わせ鏡のような現象である。フィードバックはそのほかにも、アナログのヴィデオ映像機器であればさまざまなかたちで発生させることができる。だがPCを含むようなデジタル的なシステムでは、このような信号の暴走はノイズと判断され、受け付けられないことが多い。初期のヴィデオ・アーティストたちの多くはこのフィードバックに注目し、それを使用した作品を制作してきた。美術批評家のロザリンド・クラウスは「ヴィデオ ナルシシズムの美学」のなかで、このフィードバックをヴィデオ・アートの本質的な要素と捉え、そこに主体と客体が同一閉回路のなかで溶解するナルシシズムの発生を見ている。クラウスの「批判」は偏狭で的外れではあるが、確かにその分析の示すとおり、ヴィデオ・フィードバックは電子映像の圧倒的なスピードと循環が私たちの意識を否応なく巻き込み、その主体性を失わせてしまう状況を批判・反省的に提示しているものだといえよう。現代では、フィードバックをかつてのように単なる技術的な「珍しい」現象として実験的にのみ捉えることに意味はない。むしろメディア学者のイヴォンヌ・シュピールマンが言うように、ヴィデオ映像は本質的に再帰的なのである。

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参考文献

『ヴィデオ 再帰的メディアの美学』,イヴォンヌ・シュピールマン(海老根剛監訳、柳橋大輔、遠藤浩介訳),三元社,2011
『情報社会を知るクリティカルワーズ』,田畑暁生編,フィルムアート社,2004
「ヴィデオを待ちながら 映像、60年代から今日へ」展カタログ,「ヴィデオ ナルシシズムの美学」,ロザリンド・E・クラウス(石岡良治訳),東京国立近代美術館,2009