エイズ・アクティヴィズム
- AIDS Activism
- 更新日
- 2024年03月11日
1981年、米国防疫センターへの男性同性愛者の症例報告を経てマスコミにより周知されたエイズをめぐる諸問題に対し、アメリカ合衆国を中心に行なわれてきた政治・医療・教育・文化など多方面においてのデモンストレーション、抗議活動、およびPWA(エイズとともに生きる人々)へのサポートを指す。アクティヴィズムの試みはGMHC(ゲイ・メンズ・ヘルス・クライシス)を中心としたゲイ・コミュニティのセルフケアから始まった。87年には、サンフランシスコでC・ジョーンズ発案のメモリアル・キルト(エイズで亡くなった親しい人の名前をキルトに縫い込むプロジェクト)が開始され、ニューヨークでもACT UP(力を解き放つためのエイズ連合)が形成された。現代美術の文脈では、90年前後にエイズで死亡したR・メイプルソープとK・ヘリングのエイズ関連の活動および作品が注目され、アクティヴィストの美術への介入も見られた。例えば、ACT UPは88年にMoMAで開催されたN・ニクソンの写真展「人々の姿」におけるPWAの肖像を「文脈を奪われモノ化された『エイズ犠牲者』のイメージ」として批判し、美術館に対しても抗議行動を起こした。『オクトーバー』誌でエイズ特集(1987)を組んだD・クリンプもニクソンを批判し、「エイズとの闘争に積極的に参加する文化的実践」としてACT UPと繋がりの強いアーティスト集団グラン・フュアリらのインスタレーション《記録が示すままに…》(1991)を高く評価した。その政治優先の芸術観に対してはD・デイチャーらが異論を唱えるなど、美術におけるエイズの表象に関しての議論も盛んに戦わされた。96年に新たな抗HIV薬が開発されエイズの発症率および死亡率が大きく減少すると美術における議論は沈静化するが、GMHCなどのアクティヴィズムは今世紀に入ってからもPWAのサポートを中心に維持されている。
補足情報
参考文献
『エイズなんてこわくない ゲイ エイズ・アクティヴィズムとはなにか?』,田崎英明・編,河出書房新社,1993
『インパクション(87)』,特集=エイズ・アクティヴィズム,インパクト出版会,1994
『美術手帖』1991年6月号,特集=エイズ,美術出版社