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黄金比

Golden Ratio
更新日
2024年03月11日

18世紀まで呼称は「究極の中庸の比」。a : b = b :(a + b)のときのa : bで、値は1 : (1 + √5)/2、近似値は1 : 1.618である。後項(黄金数)はn=1のときのx2 – nx – 1 = 0の解である(この式の解は一般に貴金属数という)。20世紀初頭に黄金数の記号として使われ始めたφは、紀元前5世紀にパルテノン神殿建設の監督を務めたとされた彫刻家ペイディアスに帰する。しかし紀元前6世紀に無理数を否認したピタゴラス学派がシンボルに用いた五芒星にも黄金比は現われており、紀元前3世紀の『ユークリッド原論』では明確に定義された。文献上はルネサンスの比例への関心の下、ルカ・パチオリが『神聖比例』(1497/1509出版)として黄金比を挙げたが、『原論』を超える内容ではなく、同書後半の建築論とも連関しない。したがって古代から中世の建築家が意識的にこの比を利用したかは論争の種である。「下からの美学」つまり実験心理学的美学の立場から、グスタフ・テオドール・フェヒナー『美学序論』(1876)は人々が黄金比を好むと統計的に示したが、この結果には賛否が分かれる。同様に自然の産物に黄金比が潜むという通念も、一般に黄金比が有効とされる数字4桁に、厳密に合致するものは少ない。むしろ6世紀にインドで発見され、レオナルド・フィボナッチ『算盤の書』(1202)で西欧に紹介されたフィボナッチ数列の第n項と第n+1項の比が、初項・第2項にかかわらず n → ∞ において黄金比に収束することは重要である。比例に関心を示した初期モダニズムの建築家の中でも、特にル・コルビュジエは身長182.8センチメートル(6フィート)の人体を赤と青の2系列のフィボナッチ数列で分割したモデュロール(1946)を提案した。キャンヴァスを黄金比に整えたサルバドール・ダリや、フィボナッチ数列をテーマとするマリオ・メルツなどの美術家もいる。

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参考文献

『黄金比はすべてを美しくするか?  最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語』,マリオ・リヴィオ(斉藤隆央訳),早川書房,2005
『建築美論の歩み』,井上充夫,鹿島出版会,1991
『黄金比とフィボナッチ数』,R・A・ダンラップ(岩永恭雄、松井講介訳),日本評論社,2003