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オルフィスム

Orphism(英), Orphisme(仏)
更新日
2024年03月11日

1910年代のフランス・パリでキュビスムから分派した芸術運動。12年、ラ・ボエシー画廊における「セクシオン・ドール(黄金分割)」展を実見した詩人のG・アポリネールは、新しい芸術家の台頭を予感させる運動として、キュビスムを四つのカテゴリーに分類。そのうちのひとつを「オルフィック・キュビスム(オルフェウス的キュビスム)」と呼び、「視覚上の現実にではなく、完全に芸術家によって創造され、強力な現実性を賦与された現実にもとづく諸要素で、新しいものの全体を描く芸術」と定義した。セクシオン・ドールの展覧会には参加していなかったロベール・ドローネーをはじめ、F・レジェ、F・ピカビア、M・デュシャンをこのカテゴリーに含めたことがオルフィスムの命名に繋がった。もともと象徴主義の文脈で使われていた、「謎めいていて、うっとりする」という意味を持つ単語「オルフィーク」をアポリネールが用いたのは、くすんだ灰色や緑を主調とするピカソやブラックのキュビスムとは一線を画した、ドローネーの明るく輝く色彩を讃えてのことである。12年頃のドローネーは、フランス初となる非対象絵画を模索している最中であり、シュヴルールの色彩理論書『色彩の同時的対比の法則』、音楽と絵画のアナロジーや共感覚、太陽信仰の思想などに拠りつつ、色彩の対比のみで画面を構成する《窓》や《円形のフォルム》のシリーズを展開していた。また彼の伴侶であるソニア・ドローネーも「同時的対比」の原理に基礎を置き、絵画作品のほか、室内装飾、装幀や舞台衣裳などの領域で才能を発揮した。ドローネーと同じ頃に非対象絵画に向かったF・クプカをはじめ、W・カンディンスキー、P・クレー、F・マルクなど、フランス国外の同時代美術とも精神的風土を共有した運動と言えよう。

著者

補足情報

参考文献

「ソニア・ドローネ」展カタログ,読売新聞社,2002
「ドローネー ロベールとソニア」展カタログ,東京国立近代美術館,1979
『アポリネール全集』,鈴木信太郎、渡邊一民編,紀伊國屋書店,1964