観者
- Beholder
- 更新日
- 2024年03月11日
美術作品を観る者を意味する美術史学用語。英語ではbeholder、viewer、spectator、observerなどに対応する語。一定の語義や用法があるわけではなく、論者や論点、文脈によりさまざまに用いられるが、モダニズム的な芸術観を前提とし、芸術の自律性や純粋性を重視する文脈で用いられる場合が多い。そこでは、美術作品とそれを観る者との関係が一対一の関係として想定され、美術作品の芸術的側面、特に視覚的効果に重点が置かれることが少なくない。しかし作品と観者との一対一の関係は、多くの観客が訪れる展覧会場といった現実の公共的空間では成立しにくく、そうした点についてこの語が伴う理念的な操作、限界には留意が必要となる。また作品の芸術的側面を重視することは、本来は美術作品が複合的に併せ持っている別の側面、例えば礼拝の対象としての宗教的側面や、権力のイメージ装置としての政治的側面、財産や投機対象としての経済的側面、制作・流通の背景や、作者・観者の階級・ジェンダー・性差といった社会的側面を看過しかねない。美術作品を純粋に視覚的な芸術としてのみ捉えることも、作品の触覚的要素などを捨象してしまう場合がある。なお「観者」の類語として、優れた作品を賞賛するという含意を伴うときには「鑑賞者」、美術館や展覧会の来場者には「観客」、美術外の社会的背景を踏まえる場合には「観衆」、ほかにも「受容者」「観賞者」などが用いられることがある。