記号学/記号論
- Semiology/Semiotics
- 更新日
- 2024年03月11日
さまざまな「記号(sign)」を分析対象とする学問分野の総称。「記号学(仏:sémiologie)」という名称はスイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュールに、「記号論(英:semiotics)」という名称はアメリカの哲学者チャールズ・サンダース・パースに由来する。両者はほぼ同時代人であるが、その記号学/記号論の創出に関して相互の影響関係は存在しない。ソシュールは記号学に関する体系的な著作を残していないが、学生の講義ノートに基づく『一般言語学講義』によれば、記号は「シニフィアン(意味するもの、記号表現)」と「シニフィエ(意味されるもの、記号内容)」という二つの構成要素から成り立つとされる。この両者の恣意的な結びつきからなる諸記号が言語における差異の体系として存在する、というのがソシュール記号学の根底にある考え方である。また、言語を(諸単語の集積としてではなく)差異の体系と捉えるソシュールの思想は、20世紀半ばに流行した構造主義の源流でもある。他方、パースは記号を類似、指標、象徴の三種類に分類し、それぞれ順に「イコン」「インデックス」「シンボル」という呼称を与えた。パースは生前に複数の論文を発表しているが、死後に彼が残した草稿が膨大であるという事情もあり、現在でも彼の思想の全貌が明らかになっているとは言いがたい。しかし、上述の記号の三分類をはじめとする彼の記号論が、R・クラウスをはじめとする後代の批評家たちに与えた影響は小さくない。この両者に源流を持つ記号学/記号論は、20世紀半ばに哲学者・批評家のU・エーコやR・バルトらの手によって広く文化現象の分析手法へと適用されることになる。70年代から80年代にかけてその流行は頂点に達し、20世紀後半における最も大きな思想的動向のひとつとなった。
補足情報
参考文献
『ソシュール一般言語学講義 コンスタンタンのノート』,フェルディナン・ド・ソシュール(影浦峡、田中久美子訳),東京大学出版会,2007
『記号論(1・2)』,ウンベルト・エーコ(池上嘉彦訳),岩波書店,1996
『パース著作集2 記号学』,Ch・S・パース(内田種臣編訳),勁草書房,1986
『モードの体系 その言語表現による記号学的分析』,ロラン・バルト(佐藤信夫訳),みすず書房,1972
『記号学 意味作用とコミュニケイション』,ピエール・ギロー(佐藤信夫訳),白水社,1972