芸術のための芸術
- l'art pour l'art(仏)
- 更新日
- 2024年03月11日
認識や倫理の領域ではなく、美的領域、すなわち芸術それ自体の活動に価値を見出す芸術観(芸術至上主義)のこと。この語の最も初期の使用例は、フランスの哲学者V・クーザンの講義『真善美について』に登場するとされる。ゴーティエ、ゴンクール兄弟、ボードレールなどによって19世紀半ばの文学思潮のなかで普及した。また、19世紀後半にかけての唯美主義の高まりのなかで、D・G・ロセッティやF・レイトンらのロンドンの画家サークルでは「芸術のための芸術」が実体的な観念として意識されるようになり、その思潮は、ヴィクトリア朝のイギリスを舞台としたラファエル前派の活動へと展開していく。アメリカにおいても、E・A・ポーが「詩作の哲学」「詩の原理」などの評論において、詩の意味作用や精神性は詩それ自体の形式的構造により導き出されるという独自の詩作の原理について論じている。美術の分野において、そのような芸術生産の自己目的化は、表象の排除、平面性、グリッドおよびモノクロームの追究という抽象絵画に顕著な枠組みの特化を推し進めたA・ラインハートや、1969年の論文「哲学以後の芸術」における「芸術は芸術の定義である」という自己言及的・同語反復的な命題を先鋭化させたJ・コスースの実践に見出すことができる。
補足情報
参考文献
『ポオ評論集』,ポオ(八木敏雄編訳),岩波書店,2009
「ジョゼフ・コスース 訪問者と外国人、孤立の時代 1965-1999」展覧会カタログ,「哲学以後の芸術」,ジョゼフ・コスース(水沼啓和訳),千葉市美術館,1999