個室群住居
- Individual Living Units
- 更新日
- 2024年03月11日
建築家黒沢隆により提唱された住様式である。1966年に「個室群住居」のアイディアを発表して以来、黒沢は関連する論考および実践を数多く残している。近代における住居は、「単婚家族」(=核家族)による「私生活の場としての居住」であり「夫婦の一体的性格」を前提としており、「LR(居間)+ΣBR(寝室)」と図式化される。黒沢は統計や社会学の成果をもとにそうした近代的家族の前提が損なわれつつあることを指摘し、社会と個人がダイレクトに関係する現代の住居形態として、「ΣIR(個室)」と図式化される「個室群住居」を構想した。その名称から、ワンルーム・マンションのようなものが想像されがちであるが、黒沢が目指したのは単なる施設としてのそれではなく、家族という制度抜きにでも成立するような、生活基盤コミュニティとのセットによる新たな住居形態であり社会形態である。その後、最小限の空間ユニットとしての《2.4m×2.4m×8.1m》(1969)の設計にはじまり、個人住宅《ホシカワ・キュービクル》(1977)や集合住宅《コワン・キ・ソンヌ》(1983)など、「個室群住居」の理論をもとにした実作を展開する。こうした家族の居間や夫婦の寝室を前提としない住居の考え方は、その後山本理顕による《熊本県営保田窪第一団地》(1991)や《岡山の住宅》(1992)、妹島和世による《岐阜県営住宅ハイタウン北方》(1998)等に連なるものであるが、60年代当初から保育や高齢者のケアの問題を含めて「個室群住居」を構想していた黒沢の先見性には驚かされる。
補足情報
参考文献
『建築』1966年9月号,「クリティシズム3 現代住居の問題点2」,黒沢隆,青銅社
『個室群住居 崩壊する近代家族と建築的課題』,黒沢隆,住まいの図書館出版局,1997
『すまいろん』1999年春号,「『個室群住居』論の今日 日本は『近代』の最後となり得るのだろうか」,黒沢隆,住宅総合研究財団
『家族を容れるハコ 家族を超えるハコ』,上野千鶴子,平凡社,2002