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梱包

Wrapping
更新日
2024年03月11日

物体を布や紙などで包むこと。物体を保護、隠匿、装飾する目的から行なわれる。現代美術においては、梱包する行為そのもの、および結果として梱包された物体を作品とすることを「梱包芸術」と呼ぶ。その最も著名なアーティストと言えば、クリスト&ジャン=クロードであろう。彼らは1958年に椅子やバイクなど、日用品の梱包を始めたが、60年代以降は、梱包する物体が巨大化し、美術館、海岸、島々、橋、ベルリンの旧帝国議会議事堂と、見慣れた自然や都市の景観を変貌させてきた。プロジェクトの資金は、すべてクリスト自身のドローイングやコラージュ、版画などの作品を売却することでまかなっており、梱包する対象の所有者や地域との交渉も自分たちで行なっている。規模の大きさ、実現までの長い交渉にもかかわらず、ほとんどの作品は2-3週間で撤去される。観賞者はスケールの大きさと突如現われる見慣れぬ風景に驚愕し、瞬く間に消滅することに名残惜しさを感じ、その過程全体がアーティストによる作品だという事実に脱帽するのである。
もうひとりの「梱包芸術」家として挙げられるのが赤瀬川原平である。彼はハイレッド・センターのひとりとして活躍した60年代、自作の模造千円札を印刷した包装紙でハサミや鞄など日用品を梱包して読売アンデパンダン展に展示していた。この行為は次第にエスカレートしていき、最終的には宇宙の梱包――空にした缶詰の内側にラベルを貼り再び封をすることで、内部と外部を反転させるという荒技――を果たすに至る。
両者の作品は梱包という方法において共通するが、どちらも物体を覆い隠すことによって逆説的にそこに内在する形態、意味、歴史などが浮き彫りにされる。事物を日常的なコンテクストから隔離すると同時にその意味を変容させてしまうのが「梱包芸術」だと言える。

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参考文献

『クリスト 神話なき芸術の神話 Christo Works 1958-1983』,中原祐介編,草月出版,1984
『ライフ=ワークス=プロジェクト クリストとジャンヌ=クロード』,柳正彦,図書新聞,2009
『東京ミキサー計画 ハイレッド・センター直接行動の記録』,赤瀬川原平,ちくま文庫,1994