サウンド・インスタレーション
- Sound Installation
- 更新日
- 2024年03月11日
時間よりも主に空間に規定される、音を使う芸術。室内や屋外に音響を設置することでその空間や場所・環境を体験させる表現形態をとる作品。音響を(1)ある特定の閉鎖空間の内部に置く場合と、(2)開かれた環境の中に置く場合とに分けられる。(1)の代表例はアルヴィン・ルシエ《細く長いワイヤーの音楽(Music on a Long Thin Wire)》(1977)だ。広い部屋の両端に置いた机をワイヤーで結び、そこに流した電磁波を音響としてピックアップするこの作品は、部屋の中で人が動くたびに発生するほんのわずかな空気の流れをも音響化することで、ある閉鎖空間内部における音響の微妙な振る舞いを探求するだけで、十分面白い音響作品が生成されることを教えてくれる。これは「音楽作品」の可能性を拡大するサウンド・インスタレーションの好例と言えよう。また、(2)の代表例にはマックス・ニューハウスの《タイムズ・スクウェア(Times Square)》(1977-92)がある。《タイムズ・スクウェア》はニュー・ヨークのタイムズ・スクウェア駅の階段にスピーカーを仕掛け、10年以上にわたって微弱なドローン(持続音)を流し続けるというパブリック・アートである。周囲の騒音にかき消されるほど小さな音が実際に何人の通行人の耳を捉えたのかはわからないが、これが環境の音響的側面(=サウンドスケープ)を捉え直すきっかけとなることを目論んだ仕掛けだったことは確かだ。この種のサウンド・インスタレーションは、音楽における環境への関心の系譜(サティ、ケージ、アンビエント・ミュージック)や、70年代に普及したサウンドスケープの思想と、問題意識を共有するものが多い。つまり環境音の意味論的側面に注目することで聴覚的な側面から世界を捉え直そうとするのである。(2)は、いわば、世界を経験するオルタナティヴな方法を提示するものだとも言えるだろう。
補足情報
参考資料
《Music on a Long Thin Wire》,アルヴィン・ルシエ,1977
《Times Square》,マックス・ニューハウス,1977