サブカルチャー
- Subculture
- 更新日
- 2024年03月11日
直訳すれば「下位文化」。ただし、20世紀における大衆文化の興隆と不可分なこの概念は極めて複雑な側面をもっている。(1)まず、この言葉が誕生した第二次世界大戦直後において、「サブカルチャー」とはある社会のマジョリティに対するマイノリティの習慣・行動・価値観を含めた広義の文化を名指すための言葉だった。(2)その後、この言葉は「ハイカルチャー(高級文化)」に対する「低級文化」、具体的には演劇に対する映画、クラシックに対するジャズやロックに対して用いられるようになる。この場合の「サブカルチャー」は、大衆をその主な担い手とし、諸芸術の娯楽としての側面を前面に押し出した「マスカルチャー(大衆文化)」とほぼ同義であると言うことができる。(3)他方、この言葉には、80年代以降に日本語の「サブカル」という言葉が担ったような文化的卓越性が徐々に付与されていく。すなわち、「ハイ」とも「マス」とも異なる「サブ」カルチャーを享受する感性が、文化的に卓越した趣味として価値づけられていくのである。この第三の意味において、サブカルチャーはハイカルチャーとマスカルチャーの双方から区別される。具体的にはクラシックやポップ・ミュージックではなく「マイナーな」インディーズ・ミュージックを、高尚な絵画や通俗的なTV番組ではなく「マイナーな」映画や演劇を享受する態度が、卓越した趣味としての「サブカルチャー」に収斂していく。ここには、かつてC・グリーンバーグが対立させた「アヴァンギャルド」と「キッチュ」、ヴェトナム戦争の時期にアメリカを中心に勃興した「カウンター・カルチャー」、S・ソンタグが「キャンプ」と名づけた美的範疇、さらにはP・ブルデューの言う「卓越化(ディスタンクシオン)」など、20世紀の趣味や嗜好をめぐるさまざまな問題が複雑に絡み合っている様を見て取ることができる。なお、日本語における「サブカル(チャー)」という語は、時に単なるマイナー趣味と同一視されたり、オタク文化と対比されたりするように、極めて曖昧に用いられているという点には留意しておく必要がある。
補足情報
参考文献
『サブカルチャー スタイルの意味するもの』,ディック・ヘブディジ(山口淑子訳),未來社,1986
『サブカルチャーの社会学』,伊奈正人,世界思想社,1999
Little boy: The Arts of Japan’s Exploding Subculture,Takashi Murakami ed.,Yale University Press,2005
『ユリイカ』2005年8月増刊号,総特集=オタクvsサブカル!,青土社,2005