私写真
- Shi Syashin
- 更新日
- 2024年03月11日
撮影者の身のまわりの事象やプライヴェートな出来事などを題材とした写真のこと。1970年前後の日本の写真界には、戦後に隆盛を誇ってきたリアリズム写真や、ヴィジュアル・ショックを重視する広告写真の潮流にあらがうかのように、大文字の「私」に頼ることをしない、個々人の私的な立場からのアプローチを試みる写真が次々と現われた。荒木経惟の『センチメンタルな旅』(私家版、1971)などは、撮影者自身の私生活を被写体にした写真の代表的な例であると言える。そうした傾向の写真を呼ぶための言葉として、小説のジャンルのひとつである「私小説」との類似から、この呼称が使われ始めた。2000年に『私写真論』を刊行した写真評論家・飯沢耕太郎は、これら1970年代に登場した私写真を「狭義の私写真」とし、荒木、深瀬昌久、中平卓馬、牛腸茂雄の4人について論じる一方、「広義の私写真」には、撮影者の存在が介入する写真のすべてが含まれるとしている。また、荒木は94年に自ら『私写真』と題した写真集を発表しており、「私写真」というタームを積極的に自らのものとして利用してみせている。
補足情報
参考文献
『センチメンタルな旅・冬の旅』,荒木経惟,新潮社 ,1991
『私写真』,荒木経惟,朝日新聞社,1994
『私写真論』,飯沢耕太郎,筑摩書房,2000