春画
- Shunga
- 更新日
- 2024年03月11日
主に性交の情景を描いた絵画。春画が誕生したとされる奈良〜平安時代には「偃息図(おそくず)」、江戸時代には「枕絵」や「笑い絵」などと呼ばれており、近代に入って「春画」という呼称が一般的になった。男女の性交のみならず、男色や異生物との交わり、屍姦などさまざまな場面が描かれる。江戸時代には、葛飾北斎や喜多川歌麿など人気浮世絵師も手がけ、富裕層向けの注文型肉筆一枚絵と、貸本屋など出版流通の発達を背景にした庶民層向けの版本の普及によって、男女や年齢の別なく一般に流通した。主に綴じ本の形式で流通した後者は「艶本」や「春本」とも呼ばれる。1872(明治5)年の違式詿違条例の布達により販売が禁じられ、表立った流通はなくなったが、火除けやお守りとしての呪力への俗信も根強く、実際には製造や流通が続いていた。海外での人気が高く、2003年のヘルシンキ市立美術館、09年からのピカソ美術館(バルセロナ)などで春画展が開催されてきたが、日本では近代以降の美術史・浮世絵研究では積極的に扱われず、長い間展覧会も開かれてこなかった。13年に大英博物館で開催された「Shunga: sex and pleasure in Japanese art」展の日本への巡回は、開催館の決定に難航したが、15年から16年に永青文庫と細見美術館に巡回した。大英博物館での展覧会は保護者の同伴があれば16歳未満の入場も可とされたが、日本での開催では18歳未満の入場が制限された。それでも、若い女性も含め20万人を超える動員数を記録し、日本国内における春画展の開催は大きな歴史的成果となった。2019年には日本での春画展開催の内幕に迫ったドキュメンタリー映画『春画と日本人』が公開された。しかし、以降も国内における美術作品の頒布や展示における性表現の規制のあり方は大きな変化を見せておらず、性表現の頒布や展示をめぐる近代以降の日本社会との軋轢の問題は未解決のまま残されている。
補足情報
参考文献
『江戸の枕絵師』,林美一,河出文庫,1987
『春画 片手で読む江戸の絵』,タイモン・スクリーチ(高山宏訳),講談社,1998
『定本・浮世絵春画名品集成』,林美一、リチャード・レイン監修,河出書房新社,1999
『春画 浮世絵の魅惑 I-IV』,福田和彦,ベストセラーズ
『日本の春画・艶本研究』,石上阿希,平凡社,2015
『春画展 大英博物館特別出品』,永青文庫,2015
Shunga: Sex and Pleasure in Japanese Art,Timothy Clark、C. Andrew Gerstle、Aki Ishigami、Akiko Yano,British Museum Press,2013