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スイス・ミニマリズム

Switzerland Minimalism
更新日
2024年03月11日

1990年代、主としてスイスを拠点とする建築家によって展開された空間表現。単純な平面とヴォリュームとともに皮膜や素材の表現に力点が置かれる。ミニマリズムとは、60年代、主としてアメリカで展開された美術運動であり、抑制された表現のなかでの極限的な美を追求した。建築においても余剰を削ぎ落した空間構成は近代以降数多く登場したが、90年代になると、ETH(スイス連邦工科大学チューリヒ校)出身のヘルツォーク&ド・ムーロンやギゴン&ゴヤー、そしてピーター・ズントーらによるスイス・ミニマリズムのデザインが世界的な注目を集めた。これはスイスの厳格な建築法規に由来するデザイン上の不自由さを積極的に創作に取り込んだ結果であり、80年代を中心に隆盛したポストモダン建築の過剰に複雑化した形態、装飾行為へのひとつの反動と捉えることができるだろう。明快な矩形平面と、装飾が削ぎ落とされたヴォリュームを基調とした建築はマッスが強調され、存在感を放つ。加えて、石、木材、ガラスなどを多用し、それらの素材の特性が直接的に表わされることで、建築が純粋さと緊張感を纏う。モダニズムの機能性に芸術的感性と物質的具体性を付加していると言える。また、スイス・ミニマリズムはしばしば建築の表層の議論において取り上げられる。例えば、ヘルツォーク&ド・ムーロンによる鉄道の信号舎《シグナル・ボックス》(1995)は、歪んだキューブの表面にシールドの効果をもつ銅板を捩りながら巻きつけることで深い陰影が現われ、見る角度によってさまざまな表情を生む。こうした表層の操作によって、単一ヴォリュームの自立した建築でありながら、都市との関係性を損なわないよう意識されたデザインもスイス・ミニマリズムの特徴である。

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参考文献

『Minimum』,ジョン・ポーソン(西森陸雄、安藤宗一郎訳),デザインエクスチェンジ,2001
『ミニマリズム』,ジェイムズ・マイヤー編(小坂雅行訳),ファイドン,2005
『10+1』No.19,特集=都市/建築クロニクル1990‐2000,INAX出版,2000
『SD』,特集=ミニマル・スペース・アーキテクチュア,鹿島出版会,1993年7月