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ステレオ写真

Stereo-Photography
更新日
2024年03月11日

両眼視差を利用して立体視を可能にする写真で、もともとは19世紀前半に発明された科学的実験装置。わずかに異なるアングルから撮影した2枚の写真を左右の目で別々に見ることによって、立体感と奥行きを伴ったイリュージョンが得られる。正確に言えば、三次元以下、二次元以上の立体視が可能となる。1850年代にステレオスコープという専用のヴューワーやレンズが横並びになったステレオ・カメラが普及したのに加えて、鶏卵紙の発明によって厚紙に写真を貼りつけたステレオカードの量産が可能となった。51年のロンドン万国博覧会で公開されたステレオ写真にヴィクトリア女王が興味を持ったことが大きな話題となり、1850年代から1900年代にかけて欧米を中心に大流行した。立体写真専門の会社によって多くの写真家たちが世界中に派遣され、解説付きステレオ写真もセット販売された。愛好家たちは世界各地の風景や風俗が写された立体写真を蒐集し、自宅にいながら臨場感のある旅行気分を楽しむことができた。アメリカのアンダーウッド&アンダーウッド社は訪問販売を行なったほか、イギリスで旅行雑誌『ツーリズム』を発行して人々の旅への欲望を喚起した。こうしたステレオ写真は観光や教育、科学、娯楽、ポルノ、追悼などさまざまな用途に応用されて市場を拡大した。また、地図作製のための測量や飛行機による偵察、爆撃照準などの軍事用としても利用された。

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補足情報

参考文献

『立体写真集 NIPPON 明治の日本を旅する』,伴田良輔編,小学館,1994
『ステレオ日記 二つ目の哲学』,赤瀬川原平,大和書房,1993
『ステレオ 感覚のメディア史』,吉村信、細馬宏通,ペヨトル工房,1994