戦後具象
- Postwar Figurative Art
- 更新日
- 2024年03月11日
20世紀の二つの大戦終結後に見られる、直視すべき現実を具象表現によって捉えようとする美術の傾向で、共通してリアリズムの様式をとる。第一次世界大戦後の1920年代から30年代初頭のドイツでは、人間の内面性を主観的に描くことを探究した表現主義を批判する姿勢から、匿名性を隠れ蓑にする人間や社会の醜悪さを、ジャーナリスティックな視点から即物的に捉えようとするノイエ・ザッハリヒカイト/新即物主義が生まれ、その克明すぎる人物描写がかえって現実から乖離した感覚をもたらすことから、魔術的リアリズムという言葉も生まれた。第二次世界大戦後の日本では、46年から49年にリアリズム論争が展開され、戦後社会派リアリズムが台頭。敗戦後の日本が抱える社会問題や閉塞感を捉えた作品が多く発表された。代表作に、鶴岡政男《重い手》(1949)や河原温《浴室》シリーズ(1953-54)、中村宏《砂川五番》(1955)が挙げられる。美術評論家デイヴィッド・シルヴェスターが牽引するモダン・リアリズムと、美術評論家ジョン・バージャーが推進する社会派リアリズムによる論争が展開されたイギリスでは、その結果、具象表現によるリアリズムの位置づけが確固たるものとなった。そのなかで、人物の具象表現にこだわりながら、見る者の神経組織を直接刺激するような残酷さと暴力性を備えたフランシス・ベーコンの絵画は、現代における新たなリアリズムのあり方といえよう。
補足情報
参考文献
『魔術的リアリズム メランコリーの芸術』,種村季弘,ちくま学芸文庫,2010
『20世紀絵画 モダニズム美術史を問い直す』,宮下誠,光文社,2005
「戦後日本のリアリズム 1945-1960」展カタログ,名古屋市美術館,1998
『肉への慈悲 フランシス・ベイコン・インタヴュー』,デイヴィッド・シルヴェスター(小林等訳),筑摩書房,1996