戦争画
- War Paintings
- 更新日
- 2024年03月11日
国家の主導のもと、第二次世界大戦を鼓舞するために、戦争を題材として写実的に描かれた絵画の総称。「作戦記録画」、「戦争記録画」ともいうが、いずれにせよプロパガンダ芸術の一種として考えられる。代表的な作品は、藤田嗣治《アッツ島玉砕の図》(1943)をはじめ、中村研一《コタ・バル(上陸作戦)》(1942)、宮本三郎《山下・パーシバル両司令官会見図》(1942)、鶴田吾郎《神兵パレンバンに降下す》(1942)など。1938年に制定された国家総動員法にもとづいて総力戦体制が敷かれると、上述した画家のほかに、石井伯亭、藤島武二、伊原宇三郎、小磯良平らが戦地に派遣され、おびただしい戦争画が描かれた。39年には陸軍美術協会が結成され、「聖戦美術展」(1940-42)や「大東亜戦争従軍画展」(1942)などが催された。敗戦後、戦争画はアメリカ軍に戦利品として押収され、しばらく東京都美術館に保管されていたが、51年にアメリカ本土へ移管。70年に「無期限貸与」というかたちで東京国立近代美術館に返還、収蔵されたが、美術における戦争責任の議論が成熟することはなく、日本の戦後美術において「戦争画」は長らくタブーとされてきた。戦争に協力したという背景から公開に難色を示す著作権者が多いため、また日本が侵略したアジア諸国への配慮を理由に、いまだに全面公開には至っていない。だが、藤田の《アッツ島玉砕の図》がリアリズム絵画の到達点として考えられるように、「戦争画」は日本の戦後美術史を語るうえでけっして欠かすことはできない。
補足情報
参考文献
『絵描きと戦争』,菊畑茂久馬,海鳥社,1993
『戦争と美術 1937-1945』,針生一郎、椹木野衣ほか,国書刊行会,2007
『戦争と芸術 美の恐怖と幻影』,京都造形芸術大学国際藝術センター,2007
『戦後美術盛衰史』,針生一郎,東京書籍,1979
『日本・現代・美術』,椹木野衣,新潮社,1999