前衛音楽
- Avant-Garde Music
- 更新日
- 2024年03月11日
前衛音楽とは、20世紀以降の新しい芸術音楽(「現代音楽」)の総称ではなく、二大傾向の一翼である。もう片翼は「実験音楽」であり、両者は理念的に対立する。代表的な作曲家はP・ブーレーズ、L・ノーノ、K・シュトックハウゼンなどで、その多くは1946年に開始されたダルムシュタット夏期新音楽講習会に集って音楽の新傾向を探ろうとした作曲家たちだった。そこでO・メシアン《音価と強度のモード》(1949)やブーレーズ《構造I》(1951)のようなセリエリズムの書法や「管理された偶然性」といった技法が開発され、「クラスター派」や「スペクトル楽派」といった前衛音楽の新しい様式たちが生み出された。その根底には、最終的な音響結果を、エクリチュールを基盤として合理的・理性的にコントロールしたいという欲望がある。つまり前衛音楽とは、楽譜に基づく西洋芸術音楽の伝統を、作曲家の全能感を追求するかたちで継承発展しようとしたものだと言えよう。その延長線上に、ケルンの電子音楽スタジオでシュトックハウゼンが制作した「電子音楽」がある。前衛音楽と実験音楽との理念的な対立軸は、最終的な音響結果に対する作曲家の管理を必須のものとして要求するか否かということにある。それゆえケージが音響に対する作曲家の管理を放棄するために導入した「偶然性」を、前衛音楽の作曲家たちは「管理」しようとした。対立が明確化したのは50年代後半で、ケージが1958年にダルムシュタット夏期新音楽講習会に参加した「ケージ・ショック」以降である。ブーレーズは偶然性に対する自らの立場を「骰子(アレア)」(1958)という小文で主張し、前衛音楽家たちは「管理された偶然性」を考案した。彼らはあくまでも作曲家の音響に対するコントロールを手放そうとはしなかったのだ。
補足情報
参考文献
『現代音楽を読む エクリチュールを超えて』,ホアキン・M・ベニデス,朝日出版社,1981
『ブーレーズ作曲家論選』,ブーレーズ(笠羽映子訳),筑摩書房,2010
『みすず』 1992年10月号,「ケージとブーレーズ──音楽史のなかの一章 1」,ジャン=ジャック・ナティエ(恩地元子訳),みすず書房
『みすず』 1993年9月号,「ケージとブーレーズ──音楽史のなかの一章 2」,ジャン=ジャック・ナティエ(恩地元子訳),みすず書房
『シュトックハウゼン音楽論集』,シュトックハウゼン(清水穣訳),現代思潮社,1999