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全体性

Wholeness
更新日
2024年03月11日

芸術作品の構造が、部分の集積によって全体を形成しながら、複数の部分の単なる集合に留まらず、各部分が全体との関係を強固に有した統一体の状態であること。抽象表現主義におけるオールオーヴァーの概念は、絵画の画面全体が均質に処理され、部分と全体の連関や階層を喪失することで、統一的性質を獲得したが、ミニマル・アートではそのような性質が全体性の問題へと接続された。1960年まで絵画を制作していたドナルド・ジャッドは、65年の『アート・イヤーブック8』に掲載されたテクスト「Specific Objects」のなかで、ジャクソン・ポロックら抽象表現主義の絵画に統一性を見出しつつ、一方でそこにイリュージョンが不可避的に存在することを論じている。さらにジャッドは、新しい三次元の作品においてこそ、そのような絵画が内包する問題、つまりイリュージョンやリテラルな空間が取り除かれることを主張した。工業的技術を用いるジャッドの作品では、形態の決定に数値や数列が用いられ、その構成単位が幾何学的に反復される配列によって、部分と全体の同質性や作品の全体性が保証されているといえる。また、テキサス州マーファのシナティ・ファンデーションでの恒久的な作品設置に見られるように、ジャッドによる全体性は作品の外部である展示空間の構造とも強い関連性をもちえている。なお、ミニマル・アートにおいて全体性が重要な意義をもつことは、マイケル・フリードが論文「芸術と客体性」(1968)のなかで、ジャッドを引用していることからも明らかである。そこでは、作品に対する「興味」の持続を、作品がもつ全体性と、「新しい素材」である工業材の直接的提示としての「特殊性」に見出したジャッドの芸術観が参照されている。そして、この形態の全体性の経験と素材の経験は「客観性」へと敷衍されることで、それらリテラルな経験の持続こそが「演劇」的であることがフリードによって指摘された。

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参考文献

『批評空間臨時増刊号 モダニズムのハード・コア 現代美術批評の地平』,「芸術と客体性」,マイケル・フリード(川田都樹子、藤枝晃雄訳),太田出版,1995
「Donald Judd」展カタログ,ギャラリーヤマグチ,1992
『美学』第180号,「同一性のかたち ドナルド・ジャッドの芸術について」,林卓行,美学会,1995